2026年3月13日、米国特許商標庁(USPTO)が連邦官報(Federal Register)に「コンピュータ生成インターフェース及びアイコンに関するデザイン特許出願審査の補足ガイダンス」を公表した。ドケット番号PTO-P-2026-0133で正式に発効したこのガイダンスは、AR(拡張現実)・VR(仮想現実)・ホログラムといった次世代インターフェースをデザイン特許の保護対象として明確に認め、同時に長年実務の足を引っ張ってきた「画面描写義務」を事実上撤廃するものだ。
知財実務に携わる者として率直に言う。このガイダンスは、2020年代の技術的現実に法制度が追いついた、久しぶりの明確なアップデートである。空間コンピューティング元年とも呼ばれた数年間、Apple Vision ProやMeta Questが市場を開拓してきたにもかかわらず、その「空中に浮かぶUI」を守る法的手段が整備されていなかった。その空白がようやく埋まりつつある。
そもそも「デザイン特許」と「製造品要件」とは何か
デザイン特許の根拠法は35 U.S.C. § 171(以下「§171」)だ。同条は「製造品(article of manufacture)の新規・独創的・装飾的デザイン」を保護対象とする。発明特許(ユーティリティ特許)が機能を守るのに対し、デザイン特許は見た目・外観を守る。
GUIやアイコンの保護をめぐる歴史的課題は、この「製造品」という概念に集約される。物理的な物体に結びついていない純粋なデジタル画像は「製造品」と言えるのか。これが長年の論点だった。USPTOは2023年11月にも初期ガイダンスを出していたが、そこでは審査官に対し「図面に表示パネル(ディスプレイ画面)を実線または破線で描いていない出願は§171違反として拒絶せよ」と指示していた。この要件のせいで、空中投影型UIやVRヘッドセット内の仮想インターフェースは事実上保護対象外に追い込まれていた。しかし、ステークホルダーからの意見提出を受け、USPTOは「この要件が出願人の選択肢を不必要に制限している」と認め、今回の補足ガイダンスで抜本的な方針転換を打ち出した。
今回のガイダンスで何が変わったか:5つのコアチェンジ
最大の変更点は、表示パネルの図面描写義務の撤廃だ。従来は、GUIやアイコンのデザイン特許を出願する際、図面にディスプレイ画面を実線または破線で描くことが事実上必須だった。今回のガイダンスは、タイトルやクレーム中に「for a computer(コンピュータのための)」「for a computer display(コンピュータディスプレイのための)」といった言語が含まれていれば、画面の描写がなくても製造品要件を満たすと明確化した。
次に、タイトルやクレームに「for a computer(コンピュータのための)」「for a computer system(コンピュータシステムのための)」といった言語が含まれていれば、それだけで§171の「製造品」要件を満たすと明確化された。これは出願形式の自由度を大幅に拡大する変更だ。
今回のガイダンスが最も革新的なのは、AR・VR・ホログラム・投影への保護範囲の拡大だ。「物理的なディスプレイパネルから分離して存在するインターフェースやアイコンの外観」も「コンピュータとの十分な関連性を持つ限り保護される」と明記されている。
ガイダンスには12の具体的な実施例(ワークト・エグザンプル)が付属しており、どのような出願形式が認められ、どのような形式が拒絶されるかを示している。なかでも注目すべきは実施例7だ。平面に投影されたキーボードインターフェース(コンピュータを破線で示した図面つき)が特許適格と示されている。一方、実施例5では「paper stack icon」というタイトル単体(”for a computer”なし)での出願が不適格とされており、タイトルの書き方ひとつで結果が逆転することが示されている。
さらにUSPTOは、最高裁のSamsung v. Apple判決(製造品を「手または機械で作られたもの」と広く解釈)とIn re Hruby判決(噴水のデザインは製造品として特許適格)を根拠に、「製造品」概念の拡張解釈を採った。デジタル投影やホログラムもこの広義の「製造品」に含まれるとする解釈は、今後の実務の基盤となる。
ホログラム・投影インターフェースが保護されるための2条件
AR/VR/ホログラムが無条件に保護されるわけではない。USPTOは保護が認められるための要件として2点を明示している。第1に、インターフェースやアイコンの外観が、それを生成するコンピュータ、コンピュータディスプレイ、またはコンピュータシステムから分離した形で存在していること。第2に、単なる一時的な(transient)、形なしの(disembodied)、または三次元的なコンピュータ生成画像にすぎないものでないこと。
これは実務上重要な判断基準だ。AR空間に表示されるUIであっても、それが十分な具体性と継続性を持つデザインとして開示・クレームされていれば保護される。逆に言えば、漫然と「空中に何かが表示される」というだけでは不十分で、図面や説明でそのデザインを具体的に特定する必要がある。
実務への影響:5つの戦略的含意
第1に、ポートフォリオの棚卸しと再出願の検討だ。このガイダンスは既存の出願・登録済み特許にも遡及的に適用される。すでに審査中の出願で「画面なし」を理由に拒絶を受けていたケースは、補正によって状況が改善する可能性がある。AR/VR関連の出願を持つ企業は棚卸しを推奨する。
第2に、Apple・Meta・Googleの空間コンピューティング各社にとっては追い風だ。Vision ProやMeta QuestのUI、Google ARCoreベースのインターフェースについて、従来より広い保護が見込める。
第3に、産業用AR(製造業の作業指示UI、医療用ARナビゲーション等)の知財保護が容易になる。これまで保護対象外だったフィールドのUI特許出願が増加するだろう。
第4に、日本の意匠法との比較が重要だ。日本では2019年の意匠法改正で「画像デザイン」が物品から独立して保護対象となっている。その意味では日本の方が先行していたが、USPTOの今回のガイダンスは「ホログラム・投影」にまで明示的に踏み込んだ点で日本の現行実務より一歩先を行く。日本企業は米国出願の戦略見直しに加え、日本での意匠出願でもこの動向を参考に活用することを強くすすめる。
判例との関係:Hruby・Samsung v. Appleの「再解釈」
In re Hruby(1967年)は噴水の水流パターンをデザイン特許で保護した古典的ケースだ。噴水から放たれる水の軌跡はある意味「形なし」だが、裁判所はそれを製造品のデザインとして認めた。USPTOは今回、この論理をデジタル投影・ホログラムに援用している。「水と同じように、デジタル投影も製造品たりうる」という解釈だ。Samsung v. Apple(2016年最高裁)は損害賠償計算の文脈で争われたが、最高裁が「article of manufacture」を広く解釈したことがここで生きてくる。物理的な完成品全体でなく、その一部も製造品として認めた同判決の論理が、デジタルインターフェースの保護にも応用される形となった。
残された課題:「三次元デジタル画像」単体は依然グレー
ガイダンスが明確にした一方で、課題も残る。「transient or disembodied three-dimensional computer-generated images alone(単体での一時的または形なしの三次元CGI)」については依然として保護対象外とされており、その境界線はケースバイケースの判断に委ねられる。実際のARアプリで動的に変化するUIが「transient」かどうか、VR環境内で毎回異なる形に生成されるインターフェースが「disembodied」かどうかは、今後の審査・審判実務を通じてより明確になっていくだろう。実務家としては、クレームの記載において「デザインの具体性・固定性・コンピュータとの結びつき」を丁寧に書き込む戦略が求められる。
まとめ:空間コンピューティング時代のデザイン特許、ようやく現実に追いつく
2026年3月13日付のUSPTO補足ガイダンスは、デザイン特許制度における重要なマイルストーンだ。ディスプレイ画面の図面描写義務は撤廃され、AR・VR・ホログラム・投影インターフェースはデザイン特許の保護対象として明示的に認定された。”for a computer”というクレーム言語は製造品要件を満たすものと明確化され、12件の実施例が審査官・出願人双方に指針を提示。パブリックコメント締切は2026年5月12日だ。
アップルのVision ProやMetaのMRヘッドセット、産業用ARアプリまで、次世代UIの競争は激化する一方だ。そのビジュアルデザインを守る法的インフラがようやく現実に追いついてきた。空間コンピューティングのUIを手がける企業・開発者は今すぐ、この変化を自社の知財戦略に織り込む必要がある。

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