世の中には、ロゴやブランド名が商標登録されているのは知っている人が多いと思います。でも、「形そのもの」が商標になっていると聞いたら、少し驚きませんか?
わたしが今回調べたのは、コカ・コーラの「コンター ボトル」——あの独特なくびれのある瓶の形です。実はこれ、日本でも「立体商標」として登録されているんです。しかも登録までの道のりが、実に面白い。特許庁に一度拒絶されながら、裁判で逆転勝訴するという、まるで探偵小説のような展開だったんです。今回はその全貌を一次資料を追いながら解説します。
コカ・コーラの知財保護——130年以上の歴史
まず、コカ・コーラの知的財産の歴史を整理しておきたいと思います。
コカ・コーラが誕生したのは1886年、アメリカ・アトランタの薬局「ジェイコブス ファーマシー」でのことです。開発者は薬剤師のジョン・ペンバートン。当時の原材料であるコカ(コカの葉)とコーラ(コラノキのナッツ)を組み合わせた名前は、ペンバートンの経理担当フランク・ロビンソンが命名しました。ロビンソンは「大文字のCが2つ並んだほうが広告映えする」という理由でスペルを「Coca-Cola」に統一し、流れるような書体(スペンサリアン体)でロゴをデザイン。これが1893年に米国特許庁への商標登録に至ります。
つまり、「Coca-Cola」という文字ロゴは130年以上前から商標として守られているわけです。そしてその後、瓶の形・ロゴタイプ・色(赤)と、コカ・コーラ社の知財ポートフォリオは何層にも積み重なっていきます。
「暗闇でも触れば分かる瓶」の誕生(1915年)
コンター ボトルが生まれた直接のきっかけは、模倣品の氾濫でした。
1900年代初頭、清涼飲料市場には「コカ・コーラに似せた」製品が続々と登場していました。ラベルの文字まで真似するものもあり、消費者がどれが本物か分からない状態が続いていたといいます。1906年にコカ・コーラ社はラベルを刷新して差別化を図りましたが、当時は氷水の入った樽の中で販売することも多く、水濡れでラベルが剥がれてしまう問題もありました。
そこでコカ・コーラ社が打った手が「ボトルの形そのものをブランドにする」という発想の転換でした。1915年、全米のボトリング会社が参加するコンテストを実施。求められたのは「暗闇の中で触っただけで分かる」「割れた破片だけ見ても分かる」という、前代未聞の要件でした。
このコンテストを制したのが、インディアナ州テラ・ホートのルート・グラス社(Root Glass Company)でした。同社のデザイナー、アール・ディーン(Earl Dean)はカカオの実のシルエットを参考に、あの独特のくびれを設計したとされています。
📋 米国での最初の意匠登録:D48,160(Google Patents)(1915年)
意匠権(日本)・デザインパテント(米国)は、製品の外観デザインを保護する知財権です。コカ・コーラは1915年の意匠登録で「形の保護」の第一歩を踏み出し、1923年には改良版のボトルデザインを再登録しています。ただし意匠権には存続期間があります(日本では出願から25年)。そこで意匠権が切れた後も「形」を守り続けるために活用されたのが、存続期間の定めがない「商標権」だったのです。
日本の「立体商標制度」とは何か
ここで制度の話を整理しておきます。
日本の商標法では従来、商標として登録できるのは文字・図形・記号・色彩などに限られていました。立体的な形状は原則として対象外だったのです。これが変わったのが1997年(平成9年)。商標法改正により「立体商標制度」が導入され、商品や包装の立体的な形状も商標登録できるようになりました。
ただし、立体商標の登録には非常に高いハードルがあります。商標法第3条は「自他商品の識別力」を登録要件として定めており、商品の機能や美感を発揮するために「不可欠」な形状(例:ペットボトルのような標準的な形)は、原則として登録できません(商標法第4条第1項第18号)。
識別力を獲得する方法は2つです。ひとつは「もともと独自性が高く、誰も同じ形を使っていない」ケース(3条1項)。もうひとつは「長年にわたって使い続けた結果、消費者がその形を見るだけで特定のブランドと認識できるようになった」ケース(3条2項)。コカ・コーラが狙ったのは後者、いわゆる「使用による識別力の取得」でした。
特許庁との攻防——拒絶から逆転勝訴まで
ここが今回の記事でわたしが最も面白いと思った部分です。
コカ・コーラ社(ザ コカ・コーラ カンパニー)が日本でコンター ボトルの立体商標を出願したのは2003年のことです。しかし特許庁は2007年2月、これを拒絶します。理由は「消費者が瓶の形ではなく、瓶に書かれた『Coca-Cola』の文字部分を識別標識として認識しており、立体形状だけでは自他商品の識別力がない」というものでした。
コカ・コーラ社は不服審判を申し立てましたが、特許庁は審判でも「審判請求は成り立たない」と判断。これを受けてコカ・コーラ社は審決の取り消しを求める訴訟を起こします。
そして2008年、知財高裁(飯村敏明裁判長)が特許庁の審決を取り消す判決を下しました。裁判所は「立体的形状の独自性(形が特殊かどうか)」については特許庁の見方を認めつつも、「長年にわたる一貫した使用の事実、大量の販売実績、多大の宣伝広告等から、蓄積された識別力は極めて強い」と判断。使用実績という”証拠の蓄積”によって逆転したわけです。
コカ・コーラ側は、消費者調査のデータや販売実績、広告出稿量などの証拠を積み上げて「この形を見ればコカ・コーラだと分かる」という事実を証明しました。知財の世界では、こうした使用実績の証拠を「使用証拠」と呼びます。
この判決を経て、コンター ボトルの立体商標は最終的に登録されました。
📋 日本の商標登録番号:第4991338号(J-PlatPatで確認可能) 登録日:2006年3月
この商標が「守るもの」と「守れないもの」
商標権は万能ではありません。コカ・コーラの立体商標が守るのは、あくまで「コカ・コーラのあのコンター ボトルの形」を「飲料に関連して」使用することを独占的に使用できる権利です。
具体的には、同じようなくびれのある瓶を使って、消費者がコカ・コーラと混同するような別の飲料を販売した場合、商標権侵害として差止請求や損害賠償請求の対象になります。
一方で、一般的に「くびれたボトルをデザインする」こと自体は商標権の対象外です。保護されるのは「あの特定の形」であり、飲料という「指定商品」との関係においてです。また商標法は、機能確保に不可欠な形状を独占させることを明確に禁じているため(4条1項18号)、例えばペットボトルのような「形として一般的なもの」は立体商標にはなれません。
商標権の存続期間は登録から10年ですが、更新手続きを繰り返すことで半永久的に維持できます。これが「意匠権」との最大の違いです。コカ・コーラが立体商標の取得にこだわった理由は、意匠権の保護期間が終わった後も「形の独占」を永続させるためにほかなりません。
商標制度全般については、特許庁「商標制度の概要」に詳しく解説されています。
日本で認められている立体商標の例
立体商標の審査は非常に厳しく、日本での登録例はごくわずかです。代表的なものをいくつか挙げます。
ヤクルト容器:あの小さな独特の容器形状が立体商標として登録されています。ヤクルト本社の登録です。コカ・コーラと同様、形だけを見てブランドが分かるという識別力が認められています。
キッコーマン卓上瓶:醤油の卓上ボトルとして知られる八角形に近いあの瓶も、立体商標として登録されています。デザイナーは栄久庵憲司氏で、1961年のグッドデザイン賞受賞作品でもあります。
トリコロールのリボンキャンディ:三色のリボン状の形のキャンディも立体商標として登録されています。
いずれも「その形を見ただけでブランドが分かる」という高い識別力を、長年の使用実績によって証明したものです。逆に言えば、どんなに個性的な形でも、消費者への浸透度を証明できなければ立体商標にはなれません。
100年かけて積み上げた「形の権利」——知財戦略の本質がここにある
今回この件を調べていて、一番驚いたのは「特許庁に拒絶されてから裁判で逆転した」という経緯でした。コカ・コーラほどの世界的ブランドでも、日本の特許庁は「文字ロゴが有名なのであって、瓶の形だけでは識別できない」と判断したわけです。
知財の世界では、「有名であること」と「形が識別力を持つこと」は別の問題として扱われます。コカ・コーラ側は膨大な使用証拠を積み上げて、裁判で初めてそれを認めさせた。まさに「証拠の戦い」だったわけです。
ブランドの形を守るために、1915年の意匠登録から2008年の裁判勝訴まで、100年近い時間をかけて権利を積み重ねてきた——知財戦略とはこういうものなんだと、改めて実感しました。
次回は「ヤクルト容器の立体商標」をより深掘りして、容器デザインがどのように法的保護の対象になったのかを追っていこうと思います。
【出典・参考リンク】
- J-PlatPat(特許情報プラットフォーム) — 国内特許・商標の公式検索データベース、INPIT(工業所有権情報・研修館)運営
- Google Patents: USD48,160 — コカ・コーラ瓶の米国意匠登録(1915年)
- 弁理士法人創英:コカ・コーラ瓶の立体商標登録を認める知財高裁判決(2008年)
- 特許庁:商標制度の概要
- 日本コカ・コーラ:「コカ・コーラ」「コーク」は登録商標ですか?
本記事は公開情報をもとにした調査・解説であり、法的アドバイスではありません。商標・特許に関する具体的なご相談は、弁理士または弁護士にお問い合わせください。

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