欧州特許庁、欧州発明家賞2026の最終候補12組を発表。マラリアワクチン、量子センシング、半導体プローブカードなど産業4部門

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欧州特許庁(EPO)は2026年5月13日、欧州発明家賞(European Inventor Award)2026の最終候補12組を発表した。表彰式は7月2日にベルリンで開催される。EPOは毎年、特許化された発明を通じて社会・経済・技術の進歩に貢献した個人・チームを「産業」「研究」「中小企業」「非EPO加盟国」の4部門で表彰しており、本年で19回目となる。

発表によれば、最終候補はバイオテクノロジー、ヘルスケア、再生可能エネルギー、半導体、デジタル技術、フードテック、量子技術、鉄道輸送、先端製造の各分野にまたがる。候補者は中国、チリ、チェコ、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ポーランド、ポルトガル、スウェーデン、スイス、英国、米国の出身者で構成される。

産業部門:半導体、データストレージ、食品技術

産業部門は、大企業に所属する発明者を対象とする。最終候補3組は次の通り。

イタリアのTechnoproboeに所属するGiuseppe Crippa、Roberto Crippa、Stefano Felici、Riccardo Vettori、Raffaele Vallauri、Flavio Maggioniの各氏は、半導体プローブカードを迅速かつ局所的に生産する手法を開発した。プローブカードは半導体ウェハーの電気特性試験に不可欠な部品であり、AI・5G時代における試験スループット向上に寄与する。

スイスとギリシャに拠点を置くEvangelos Eleftheriou氏らは、磁気記憶装置とフラッシュメモリを横断するデジタルストレージ技術およびインメモリ計算の進歩に対する貢献で候補入りした。同氏は長年IBMチューリッヒ研究所で記憶階層と計算アーキテクチャの研究を主導してきた人物である。

ギリシャとスウェーデンで活動するAngeliki Triantafyllou氏は、オーツ麦由来飲料の安定性・風味・機能性を改善する酵素プロセスを発明した。植物性飲料市場の成長に伴い、嗜好性とテクスチャの両立が課題となっており、本技術は工業生産現場での採用が進んでいる。

研究部門:マラリアワクチン、がん抗体、極低温量子センシング

研究部門は、大学・研究機関に所属する発明者を対象とする。

英オックスフォード大学のSir Adrian Hill氏は、マラリアワクチンR21/Matrix-Mの開発で候補に入った。同ワクチンはアジュバントとしてNovavaxのMatrix-Mを使用し、世界保健機関(WHO)が2023年に予防接種推奨を出している。アフリカ諸国で大規模な接種プログラムが進行中で、世界の年間マラリア死者数(推定60万人)の大幅減少が期待されている。

ポルトガルのPaula Videira氏らは、がん細胞と健常組織を区別する抗体を開発した。腫瘍特異的な糖鎖修飾を標的とすることで、画像診断や標的治療薬の精度向上が期待される。

フィンランドのアールト大学に所属するMikko Möttönen氏は、極低温下で動作するマイクロ波センシング技術を発明した。量子コンピュータの量子ビットは電磁妨害・電力リークに極めて脆弱であり、本技術は希釈冷凍機内部でリーク・干渉を検出して量子ハードウェアの診断・信頼性・量子ビット測定を向上させる。同氏は量子サーマルパワーセンサーの先行研究でも知られる。

非EPO加盟国部門:チリ「生きたバイオフィルター」、中国の電池材料回収

非EPO加盟国部門は、EPO加盟外の発明者を対象とする。

チリの農業技術者Aníbal Montalva Rodríguez氏と建築家Miguel Ángel Fernández Donoso氏は、都市の大気汚染を植物・微生物の代謝活動で浄化する「生きたバイオフィルター」で最終候補に入った。建築外装に組み込み可能で、ラテンアメリカの都市部で実装が進む。

中国出身の発明者は、リチウムイオン電池からニッケル・コバルト・リチウムなどの重要鉱物を高効率で回収する技術により候補入りした。EV普及に伴う使用済み電池の急増と、米国・EUによる中国製重要鉱物への規制強化を背景に、リサイクル経済への影響が注目される。

中小企業部門:チェコの工業用ナノファイバー製造など

中小企業(SMEs)部門の候補にはチェコのJan Čmelík氏らが含まれる。針を使わない電界紡糸(needle-free electrospinning)技術を発展させ、ナノファイバーの工業規模での安定生産を実現した。ナノファイバーは医療フィルタ、防護マスク、エネルギー貯蔵向け電極材料などへの応用が期待されている。

受賞者発表と「人気賞」

各部門の受賞者は2026年7月2日にベルリンで開催される表彰式で発表される。生涯功労賞(Lifetime Achievement Award)の受賞者は6月10日に先行公表される予定である。また、12組の最終候補全員が「人気賞(Popular Prize)」の対象となり、一般投票と独立審査員の合議により決定される。

欧州発明家賞は2006年に創設され、欧州特許制度のプロモーションと、社会的インパクトを伴う発明の顕彰を目的としている。過去の受賞者にはCRISPR-Cas9のEmmanuelle Charpentier氏(後にノーベル化学賞受賞)、mRNAワクチン研究のKatalin Karikó氏らが名を連ねる。

本年の候補者構成は、欧州特許制度がEPO加盟国外の発明者にも開かれていること、また気候変動・公衆衛生・量子コンピューティングといった現代的課題に応える技術が評価軸として明確に位置づけられていることを示している。

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パテント探偵社 編集部

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