リード:中国国家知識産権局(CNIPA)は2026年4月10日、年間の知的財産権行政保護の工作方案(アクションプラン)を公表した。12項目で構成される同方案は、標準必須特許(SEP)紛争の行政調停・仲裁規則の新規制定、商標法の全面改定加速を重点として掲げており、5G・AI技術を巡る国際的な特許紛争が急増する中、中国の規制枠組み刷新の意思を示すものとなっている。
CNIPA2026年方案の全体像
4月10日にCNIPAが公表した2026年知識産権行政保護工作方案は、12項目(I~XII)から構成されている。最新の知的財産権戦略を体系的に示す文書として位置づけられ、単なる従来の権利保護にとどまらず、規制フレームワークそのものの改革を志向する特徴がある。
SEP規制の転換点——行政調停・仲裁規則の新制定
本方案における最大の焦点は、第III項目「特許紛争行政調停強化」に含まれるSEP関連規制である。CNIPAは「研究制定标准必要专利纠纷行政裁决、调解规则」(標準必須特許紛争の行政調停・仲裁規則と指針の新規制定)を明示的に掲げている。
この動きは、過去10年間の中国における通信・AI分野での特許紛争の複雑化に対応するものと見られる。ファーウェイやOPPOなどの国内企業が国際標準化団体(3GPP等)での特許宣言を拡大させ、同時にノキアなど外国企業との標準必須特許をめぐる裁判紛争が増加する中、行政ベースでの紛争処理メカニズムを明確化する狙いがある。
これまで中国の特許紛争処理は司法(裁判所)が主導してきたが、行政調停・仲裁という新たな公式ルート設定により、より迅速で柔軟な紛争解決を目指す構造となっている。
商標法全面改定の加速方針
第IV項目「商標使用管理強化」では、「加快商标法全面修订」(商標法の全面改定加速)が明記されている。中国の商標法は2019年の改正以来、実質的な大規模改定がなく、デジタルコンテンツ化やブランド戦略の高度化への対応が遅れていると指摘されてきた。
今回の方案で全面改定の加速が正式方針となったことで、商標権の保護範囲拡大、虚偽商標登録の取締り強化、農産物地理的表示等の保護拡充が具体化される見通しが高まっている。
AI・5Gなど新興領域への対応
方案は明示的に「人工知能等新興領域に注力」と述べており、第IX項目「重点分野・重要時期における保護強化」の配下で、AI生成物の知的財産権帰属問題、ディープラーニング関連特許の権利化促進などが論点となる見通しである。
これはCNIPAが従来の製造業・通信業中心の知財戦略から、生成AIやメタバースなど次世代技術領域への規制対応へシフトしていることを示唆している。
海外企業への規制強化——技術輸出・海外移転の厳格管理
方案では「技術輸出・知的財産権海外移転を商務部と連携して厳格管理」する方針が掲げられている。これは表面的には権利保護の観点からの政策だが、実質的には外資企業による中国内の知的財産権データへのアクセス制限、海外への技術流出防止を強化する狙いが含まれている。
特に5G・AI技術など戦略的に重要な分野では、政府による知財移転の事前承認制導入など、より厳格な管理が実施される可能性がある。
日本企業への含意
日本の通信機器、自動車電子制御、産業ロボット分野の企業は、中国向けSEP関連特許をポートフォリオに保有しており、今回のSEP行政調停規則新設は以下の点で戦略的意味を持つ。
第一に、行政調停による迅速な紛争処理が公式化されることで、従来の司法判決待ちよりも短期間での権利行使機会が増える一方、中国企業との力関係によっては調停過程での譲歩を求められるリスクも増加する。第二に、商標法全面改定に伴い、日本企業が中国で保有する商標権の保護範囲が再構定される可能性があり、予防的な権利追加登録が必要になる場合がある。
また、海外移転の厳格管理方針下では、中国での知財開発成果を日本本社へ移転する際の政府承認プロセスが複雑化する可能性も想定される。
国際的背景と今後の動向
CNIPA公式サイトに掲載された同方案は、中国がWTO・CPTPP等の多国間協定での知財ルール統一に対し、自国の行政規制枠組みで対抗する姿勢を示すものとも解釈できる。
特にSEP行政調停規則の新設は、米国・EU諸国がSEP licensing の市場競争原理に基づくアプローチを強化する中で、中国が「政府主導の調停型」モデルを対置する意思を表明したものと見なせる。これは今後、WIPO、ITC等での国際紛争処理についても、中国がより主体的な立場を確保したいという意向を反映している可能性がある。
結論
CNIPA2026年方案は、単なる知財保護強化の行政文書ではなく、中国がデジタル・AI時代における知的財産権規制の主導権を握ろうとする戦略的アクションプランである。SEP、商標、新興領域の包括的な規制枠組み再構築は、対中国ビジネスを展開する日本企業にとって、知財戦略の大幅な見直しを迫る重要な転機となり得る。
出典
- National Law Review – “China’s National Intellectual Property Administration Releases 2026 Intellectual Property Administrative Protection Work Plan”
- China National Intellectual Property Administration (CNIPA) Official Website
この記事について
パテント探偵社 編集部
知的財産の世界で起きている出来事を、ジャーナリズムの手法で報道・分析する独立メディア。特許番号・法的根拠・当事者名を正確に記述しながら、専門家以外にも読みやすい記事を届けています。掲載内容は法的アドバイスではありません。

コメント