司法省が再びSEP独禁法クレームを牽制——Samsung対Netlist訴訟への意見書で「規格採択は市場支配力を生まない」と主張

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米司法省(DOJ)は2026年4月7日、SamsungとNetlistの間で係属中の特許侵害訴訟において意見書(Statement of Interest: SOI)を提出した。同SOIはSamsungが提起した反訴における独禁法違反クレームに関するもので、IPWatchdogが4月8日に報じた。DOJはこの意見書の中で、「技術規格への採択という事実だけで当該特許権者が市場支配力を持つと推定されるわけではない」との立場を改めて明示し、標準必須特許(SEP: Standard Essential Patent)をめぐる独禁法適用の範囲について裁判所に明確な判断基準を示すよう求めた。

この訴訟はNetlist Inc.(本社:カリフォルニア州)がSamsung Electronics Co., Ltd.を相手取り、DRAM・NANDフラッシュメモリの関連特許侵害を主張して起こしたものだ。SamsungはこれへのカウンタークレームとしてNetlistの特許がFRAND条件(公平・合理的・非差別的ライセンス条件)に基づくライセンス義務に違反しているとして独禁法違反を主張していた。DOJが提出したSOIは、このSamsungの独禁法クレームをどのような基準で判断すべきかについて、裁判所に対して政府の立場を示したものである。

DOJがSEP関連訴訟にSOIを提出するのはこれが初めてではない。同省はこれまでにもEricsson対D-Link事件(米連邦第5巡回区控訴裁判所、2014年)やNokia対Continental事件など複数の標準必須特許訴訟において意見書を提出し、「規格採択のみを理由に市場支配力を認定することは独禁法の観点から適切でない」という一貫した政策立場を維持してきた。今回のNetlist対Samsung訴訟への関与も、このDOJの基本方針の延長線上にある。

SEPをめぐる独禁法上の問題は、5G・WiFi・Bluetooth・USB規格など技術標準が産業を横断して普及する中で、ますます複雑な様相を呈している。規格に採択されることで当該特許は「ロックイン」効果を持ち、競合技術を排除する可能性がある。これを根拠に、SEP保有者が市場支配力を持つとして独禁法違反を主張する事件は近年増加している。しかしDOJは一貫して、規格への採択という技術的事実と市場支配力という独禁法概念を直接結びつけることには慎重な立場を取り続けている。

Netlist対Samsung訴訟のより広い文脈を整理しておく。Netlistはメモリシステムの設計・開発企業で、LRDIMM(Load-Reduced DIMM)やHBM(High Bandwidth Memory)に関連する複数の特許を保有している。同社は2021年以降、Samsungをはじめとするメモリ大手に対して特許訴訟を積極的に展開してきた。一方Samsungは、Netlistが保有する特許のうちJEDEC(半導体工業標準化機構)規格に採択されたものについて、FRAND条件でのライセンス提供義務があると主張し、これが反訴の核心となっている。

DOJがこの事件にSOIを提出したタイミングは、SEP政策をめぐる国際的な議論が活発化している時期と重なる。欧州では2023年に欧州委員会がSEP規則案(SEP Regulation proposal)を提出し、中国ではCNIPAが標準化と知財をめぐるガイドラインを相次いで整備している。米国でも、USPTOとNIST(国立標準技術研究所)がSEPのライセンスと執行に関する指針を策定・更新してきた経緯がある。今回のSOIはそうした政策文脈の中で、司法省がSEP関連の独禁法基準について裁判所に積極的に関与しようとする姿勢の表れとも解釈できる。

SEPと独禁法の交差点をめぐる問題は、特許実務家・企業法務・規制当局のいずれにとっても重要な論点であり続けている。DOJの今回の意見書が当該訴訟の結論にどう影響するかは今後の審理次第だが、「規格採択だけでは市場支配力を生まない」という命題が米国司法省の公式立場として繰り返し確認されたことは、SEP訴訟の弁護戦略・ライセンス交渉双方において一つの指針となるだろう。

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パテント探偵社 編集部

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