韓国の国立研究機関である韓国電子通信研究院(ETRI)は2026年4月8日、2025年における標準必須特許(SEP)ポートフォリオのライセンス収入が502億ウォン(約3,390万ドル)に達し、年間収入として過去最高を記録したと発表した。また、2023年から2025年にかけての3年間の累計収入は1,313億ウォン(約8,890万ドル)に上る。
ETRIは5G通信規格をはじめとする各種国際標準の技術仕様に不可欠な発明を多数保有しており、そのSEPポートフォリオのライセンス収入は、非営利・研究目的の機関が知的財産権の商業化を通じていかに安定した収益基盤を構築できるかを示す事例として注目されている。
ETRIとSEPポートフォリオの概要
ETRIは韓国政府の傘下にある公的研究機関であり、5G(第5世代移動通信)、Wi-Fi、コーデック技術など通信・情報技術分野における標準化活動に長年にわたり参画してきた。国際電気通信連合(ITU)や第3世代パートナーシップ・プロジェクト(3GPP)などの標準化機関においてETRIの研究者が発明した技術が規格に採用された場合、当該特許はSEPとなり、規格を実装するすべての製品・サービスに対してFRAND(公正・合理的・非差別的)条件でのライセンス提供義務が生じる。
ETRIのSEPポートフォリオは、5G関連標準を中心に数千件規模に及ぶとされており、韓国国内外の通信機器メーカー、スマートフォンメーカー、ネットワーク機器ベンダーに対してライセンスを行っている。国際的なSEPライセンス市場では、クアルコム、エリクソン、ノキア、インターデジタル、ファーウェイなどの大手が主導する中、ETRIは国立研究機関として独自の地位を占めている。
収益増加の背景
2025年のSEPライセンス収入が過去最高を更新した背景には、複数の要因が考えられる。まず、5G対応デバイスの世界的な普及拡大により、5G関連SEPのライセンスを必要とする製品の市場規模が拡大している。スマートフォンの5G対応率は世界主要市場で高まり続けており、ライセンス対象製品数の増加が収入増に直結する構造がある。
次に、ETRIが近年にわたって進めてきたSEPポートフォリオの強化と積極的なライセンス活動の成果が顕在化している可能性がある。SEPライセンスは、特許の有効性・必須性の主張と実証、FRAND条件の交渉、場合によっては訴訟を経た権利行使という複層的なプロセスを要するため、収益基盤の構築には中長期的な取り組みが必要だ。3年累計で1,313億ウォンという数字は、この積み重ねの結果を示している。
SEP市場における位置づけ
SEPライセンス市場は近年、FRAND条件の解釈をめぐる法的紛争が各国で増加しており、欧州(特に英国・ドイツ)、米国、中国において規格実施者とSEP保有者の間で複数の重要判決が出されている。このような環境下で、ETRIのSEP収入が過去最高を更新したことは、研究機関によるSEP保有がいかに重要な収益源となりうるかを示す事例として意義深い。
特に、民間企業とは異なる立場にある国立研究機関がFRAND交渉を通じて相当規模の収益を得ていることは、SEP制度の機能について様々な論点を提示する。一方ではSEP制度が研究・標準化活動へのインセンティブを実際に機能させていることの証左と見ることができるが、他方ではSEP保有者がFRAND義務の範囲でどこまでの収益化が正当化されるかという問題を改めて提起する。
日本および国際的な含意
日本のSEP政策においても、特許庁・経済産業省がSEPライセンス交渉の透明性・公平性に関するガイドラインを策定・更新してきており、国際的なSEP紛争動向の把握は実務上不可欠だ。ETRIの事例は、国立研究機関・大学等がSEP収益化を通じて研究投資の回収と継続的な標準化活動への参加を両立させるモデルとして参照されうる。
なお、この動向はIPWatchdog(2026年4月10日付)が報じている。
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パテント探偵社 編集部
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