EU AI法のGPAI実施要領・著作権章で第2回協議——アトリビューション技術と苦情対応の標準化を議論

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欧州委員会は2026年4月8日、EU AI局(EU AI Office)が汎用人工知能(GPAI)実施要領の署名者タスクフォース(Signatory Taskforce)の第2回会合を開催したと発表した。今回の協議は実施要領の著作権章(Copyright Chapter)に焦点を当て、Amazon、Google、Microsoftをはじめとする主要テクノロジー企業の代表者が参加した。

議論の中心となったのは、生成AIモデルによる著作権侵害リスクのあるアウトプットを技術的に軽減する手法と、権利者からの苦情を受け付けるコンタクトポイント(窓口)の設計・運用の2点である。参加者は、アトリビューション(帰属表示)アルゴリズムの活用や、AIモデルのライフサイクル全体を通じて著作権リスクを管理するアプローチについて実装経験を共有した。

GPAI実施要領の位置づけと著作権章の意義

GPAI実施要領(GPAI Code of Practice)は、2024年8月に施行されたEU AI法(Regulation (EU) 2024/1689)に基づき、汎用AIモデルの提供者が遵守すべき実践規範を定めるものだ。同要領はAI法第53条・第55条が定める義務(透明性確保、著作権法の遵守、評価・テスト要件など)を具体化する役割を果たす。

著作権章が扱う問題の核心は、大規模言語モデル(LLM)や画像生成モデルが学習データとして著作物を利用した場合に、その出力物(テキスト・画像・コードなど)が権利者の著作権を侵害するリスクにある。EU著作権指令(Directive 2019/790)の第4条は、テキスト・データマイニング(TDM)のための著作物利用に関するオプトアウト権を権利者に認めており、AI事業者はこれを遵守しなければならない。著作権章はこうした法的義務の実施を支援する技術的・手続き的な枠組みを提供しようとするものだ。

技術的論点:アトリビューションとライフサイクル管理

協議で取り上げられたアトリビューションアルゴリズムとは、AIが生成するコンテンツに対して、元となった著作物や学習データの情報を付与・追跡する技術的手法を指す。権利者が自らの著作物がどのように利用されたかを把握し、オプトアウトや補償請求を行う際の基礎となる情報を提供するものだ。ただし、現時点ではアトリビューション技術の実装方法は企業間で大きく異なり、標準的な手法は確立されていない。

ライフサイクルアプローチとは、AIモデルの設計・学習データ選定・ファインチューニング・デプロイの各段階で著作権リスクを継続的に評価・軽減する管理体制を指す。特定の段階だけでなく全体を通じてリスクを管理することで、最終的なアウトプットにおける侵害リスクを低減しようとするものだ。欧州委員会は参加企業にこうした「入力段階でのリスク制御」手法を普及させることを期待している。

コンタクトポイントの設計をめぐる課題

著作権章のもう一つの柱であるコンタクトポイント(苦情対応窓口)については、権利者がAI事業者に対してオプトアウトの行使や著作権侵害の申告を行う際の手続きを標準化することが目的だ。しかし、グローバルに展開する事業者にとって、各国の著作権法の要件の差異に対応した窓口設計は容易ではない。また、権利者側からは、窓口の実効性や対応速度について懸念の声もある。

タスクフォースは今回の会合で、参加各社の現在の窓口設計と運用状況について情報共有を行い、今後の標準化作業への示唆を得ることを目的としていたとされる。

日本の政策議論との関係

EU AI法とGPAI実施要領の動向は、日本における生成AI著作権政策にも影響を与えうる。日本では現行の著作権法30条の4が、AIの情報解析を目的とした著作物利用について広範な許容範囲を設けており、欧州のオプトアウト方式とは異なるアプローチを取っている。2025年以降、文化庁を中心に法整備の見直し議論が続いており、欧州の具体的な実施経験は国際比較の観点から重要な参照点となる。

今回の動向はIPWatchdog(2026年4月10日付)が報じており、AI・知財分野の実務家や政策立案者が注目している。

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パテント探偵社 編集部

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