2026年4月7日、米国連邦巡回控訴裁判所(Court of Appeals for the Federal Circuit、以下CAFC)は、ironSource Ltd. v. Digital Turbine, Inc. において先例的判決を下した。IPR(Inter Partes Review)手続きでPTABが承認した代替クレームに対して申立人が上訴するには、その代替クレームの具体的な権利範囲——元クレームから変更・追加された限定事項を含む——に紐づいた侵害リスクを立証しなければならない、とCAFCは判示した。Chief Judge Mooreが執筆した本判決は、IPR申立人がどのような宣言書を用意すべきかという実務上の基準を大きく明確化するものである。
本件の当事者であるironSource Ltd.はイスラエルを拠点とするソフトウェア企業であり、Digital Turbine, Inc.はモバイルアプリ配信技術を手がける米国企業である。Digital Turbineが保有する米国特許第11,157,256号(発明の名称:Instant Installation of Apps)は、ユーザーがアプリストアに直接アクセスすることなく、ネットワーク接続デバイスが背景でアプリをダウンロード・インストールする仕組みに関するものである。ironSourceはこの特許に対してIPRを申立て、PTABは元クレーム1〜22を先行技術に基づき無効と認定した。
しかしDigital Turbineはクレーム補正(motion to amend)を申請し、PTABはこれを認容した。PTABが新たに承認した代替クレーム23〜37には、インストールクライアントによるアプリ適格性確認(application eligibility check)およびネットワークアドレス照会(query for network addresses)という限定事項が追加されていた。ironSourceはこの代替クレームの有効性についても争うべく、CAFCに上訴した。
CAFCはironSourceの上訴を第三条適格性(Article III standing)の欠如を理由に却下した。ironSourceが提出した宣言書は、元クレーム1〜22については自社の製品「Aura」との関連を一応示していたものの、代替クレーム23〜37に追加された新たな限定事項——アプリ適格性確認とネットワークアドレス照会——に対してironSourceがいかなる侵害リスクを抱えるかについては沈黙していた。CAFCはJTEKT Corp. v. GKN Automotiveで確立した基準を適用し、代替クレームへの異議申立に上訴適格性を認めるには、申立人は当該代替クレームの追加限定事項が実際に自社の事業活動に具体的な侵害リスクをもたらすことを宣言書で明示しなければならないと述べた。
CAFCがこの事案で示した論理の核心は、クレーム補正によって権利範囲が縮減された後の特許は、元の特許とは別のものとして扱われるべきだという点にある。元クレームについての侵害リスクを示す宣言書は、代替クレームに固有の追加限定事項が包含する権利範囲について申立人が侵害リスクを負うことの証拠にはならない。ironSourceの宣言書が、すでに廃止されたAura製品の機能に言及するのみで、代替クレームの追加限定事項との関連を示さなかった点が、適格性欠如の直接の原因となった。
本判決が特許実務に与える影響は広範である。IPR手続きにおいて申立人がクレーム補正後の代替クレームに対して有効性を争い続けるためには、上訴前の段階から、代替クレームの各限定事項に対応した適格性証明の準備が不可欠となる。単に元クレームや親特許への言及を含む宣言書では足りず、補正後のクレームに追加された一つひとつの限定事項について、申立人がいかなる製品・サービス・事業計画を有しており、それがどのように当該限定事項の権利範囲と重複するかを具体的に記述しなければならない。
代替クレームがPTABに承認される事案は、IPR手続き全体の中では依然として少数であるものの、Patent Trial and Appeal Boardの運用実態として増加傾向にある。本判決を機に、代替クレームが成立した際の上訴戦略——特に宣言書の記載内容——について、IPR申立人は事前に慎重な検討が求められる。
なお、本判決は先例的(precedential)判決として指定されており、連邦巡回控訴裁判所の管轄内において拘束力を持つ。今後のIPR申立人および特許権者の双方にとって、代替クレームをめぐる上訴戦略の再構築が必要となる局面が増えるとみられる。
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パテント探偵社 編集部
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