経済産業省は2026年4月10日、令和8年度「知財功労賞」の受賞者を発表した。日本の知的財産権制度の発展・普及・啓発に貢献した個人と、制度を積極的に活用した企業等を対象とするこの年次表彰では、今年度も製造業大手から地域のスタートアップ、大学、自治体まで幅広い顔ぶれが選出された。経済産業省の発表によれば、受賞者は合計31者・名にのぼり、表彰式は2026年4月17日(金曜日)14時から赤坂インターシティコンファレンス(東京都港区赤坂1-8-1)で開催される。
知財功労賞は毎年、特許庁が主導する形で経済産業大臣表彰・特許庁長官表彰として実施されてきた。令和7年度(2025年度)からは農林水産大臣表彰と輸出・国際局長表彰が新設され、農林水産・食品分野において知的財産を活用した企業等や自治体も表彰対象に加わった。今年度の内訳は、経済産業大臣表彰9者(個人2名・企業等7者)、特許庁長官表彰18者(個人4名・企業等14者)、農林水産大臣表彰1者、輸出・国際局長表彰2者の合計31者となっている。
経済産業大臣表彰の個人部門では、戸田裕二氏(戸田知的財産コンサルティング事務所所長)と山田理恵氏(東北電子産業株式会社代表取締役社長)が選ばれた。企業等部門では、知財活用企業(特許)として株式会社竹中工務店(大阪府)、東レ株式会社(東京都)、国立大学法人北海道大学(北海道)の3者が選出された。商標活用優良企業として浅野撚糸株式会社(岐阜県)、知財活用ベンチャーとして株式会社カルディオインテリジェンス(東京都)と株式会社メディカロイド(兵庫県)、そしてデザイン経営企業としてパナソニックホールディングス株式会社(大阪府)が名を連ねた。
特許庁長官表彰の個人部門では、今村哲也氏(学校法人明治大学専任教授)、木森有平氏(木森国際特許事務所所長)、髙橋昌勝氏(産電工業株式会社・産電ホールディングス株式会社代表取締役)、平野惠稔氏(弁護士法人大江橋法律事務所弁護士・ニューヨーク州弁護士)の4名が受賞した。企業等14者の選出内訳は幅広い。特許活用優良企業にはアスリートFA株式会社(長野県)、天野エンザイム株式会社(愛知県)、ウシオ電機株式会社(東京都)、JFEスチール株式会社(東京都)、株式会社ダイフク(大阪府)、中村留精密工業株式会社(石川県)、日東建設株式会社(北海道)、株式会社Mizkan Holdings(愛知県)の8社が選ばれた。
注目されるのは、トヨタ自動車株式会社(愛知県)が知財活用企業(意匠)として特許庁長官表彰を受けた点だ。EV化・CASE(コネクテッド・自動化・シェアリング・電動化)の加速に伴い、車体デザインや内装のビジュアルアイデンティティを戦略的知財として保護・活用する取り組みが高く評価されたとみられる。同様に意匠活用企業として山崎実業株式会社(奈良県)も長官表彰を受けており、生活用品市場においてデザイン知財が競争優位の源泉となっていることを示している。商標部門では協同組合青森県黒にんにく協会(青森県)と三島食品株式会社(広島県)が選ばれ、地域農産物・食品ブランドの保護・活用が着実に前進していることが確認できる。
パナソニックホールディングスが経済産業大臣表彰のデザイン経営企業として選ばれた点も注目に値する。経済産業省・特許庁は2018年に「デザイン経営宣言」を策定し、知財・デザインを経営の中核に置く企業の育成を推進してきた。パナソニックの受賞は、家電・インフラ・エネルギーと多岐にわたる事業において、ブランドと知財を統合した経営実践が評価された結果とみられる。また、知財活用ベンチャーとして大臣表彰を受けた株式会社カルディオインテリジェンスと株式会社メディカロイドはいずれも医療・ライフサイエンス領域のスタートアップだ。メディカロイドは川崎重工業とシスメックスの合弁による手術支援ロボット「hinotori」の開発企業として知られており、医療機器分野における日本発の知財戦略が世界市場で評価され始めていることを示している。
特許庁長官表彰のオープンイノベーション推進企業として選ばれた栗田工業株式会社(東京都)は、水処理技術の分野でスタートアップや大学との知財を活用した共同開発を積極的に推進している企業だ。外部組織との知財共有・活用を通じてイノベーションを加速するオープンイノベーションの取り組みを国が評価した事例として、同様の戦略を検討している企業にとって参考となるだろう。
農林水産関連の表彰では、農林水産大臣表彰に山形県、輸出・国際局長表彰に株式会社サカタのタネ(神奈川県)と愛媛県が選ばれた。株式会社サカタのタネは野菜・花の品種開発において育成者権(PVP)を活用した国際展開の実績を持つ企業であり、農業分野の知財保護が輸出促進と直結することを示す好例だ。
今年度の受賞者の顔ぶれ全体を俯瞰すると、大企業から中堅・地域企業、スタートアップ、大学、自治体まで多様な主体が知財を活用していることが改めて確認できる。特許・意匠・商標・育成者権と複数のIP種別にわたる受賞構成は、日本の知財政策が「特許中心」から「IP全体の戦略的活用」へと重点を移していることを反映している。各受賞者の功績の詳細は、特許庁のウェブサイトに掲載されている。
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パテント探偵社 編集部
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