任天堂「キャラクター召喚」特許、USPTO全26クレーム却下

特許速報バナー 特許速報

2025年11月、米国特許商標庁(USPTO)の長官ジョン・A・スクワイアーズは、任天堂が2025年9月に取得した特許「US12403397B2」に対して職権による再審査命令(Director-Initiated Reexamination)を発令した。同特許はプレイヤーが別のキャラクターを召喚して自分の代わりに戦わせるゲームメカニクスを保護対象とするものであり、再審査の結果、全26クレームが先行技術との重複を理由に拒絶通知を受けた。USPTOによる同種の職権介入は「2012年以来の異例」と評されており、国際的なゲーム業界でも注目を集めている。

拒絶の根拠:4件の先行特許が壁に

USPTO長官が問題視したのは、出願以前に存在していた4件の先行特許との類似性だ。まず2002年にコナミが取得した「Yabe特許」がある。同特許はサブキャラクターが自動・手動で主キャラクターを補助するメカニクスを開示しており、本件の「召喚して代わりに戦わせる」構造と本質的に重なると判断された。次いで任天堂自身が2020年に取得した「Taura特許」、同社が2022年に取得した「Motokura特許」がいずれも類似のゲームメカニクスを開示していたことが認定された。さらに2020年にバンダイナムコが取得した「Shimomoto特許」も先行技術として引用されている。

これら4件の組み合わせにより、問題特許の全26クレームが新規性(35 U.S.C. § 102)または進歩性(同§ 103)を欠くと認定された。特許の全クレームが一度に拒絶されるケースは珍しく、今回の措置は業界内で広く注目されている。競合他社の過去タイトルだけでなく、任天堂自身の過去特許が自社の新特許を否定する根拠として用いられた点は、ゲーム特許実務における先行技術調査の難しさを象徴している。

Section 101:ゲームメカニクス特許が直面するもう一つの壁

今回の拒絶は先行技術(102条・103条)を根拠とするものだが、米国ではゲームメカニクスを対象とするソフトウェア特許が近年、特許適格性(35 U.S.C. § 101)の観点からも厳しい審査を受けている。2014年のAlice Corp. v. CLS Bank国際最高裁判決以降、「抽象的アイデア」に対するソフトウェア実装は特許適格性を欠くとの判断が相次いでいる。ゲームのルール・メカニクスは「抽象的アイデア」と認定されやすく、Alice判決の二段階テスト(Two-Step Framework)において特許性を認めてもらうハードルは高い。

USPTOは2019年改訂審査指針でSection 101の運用を一定程度緩和したが、ゲームの操作性やシステム的な仕組みに関する特許は依然として適格性を否定されるリスクが高い。先行技術の問題をクリアしたとしても、Section 101の壁が残るという構造が、ゲームメカニクス特許の取得を根本から難しくしている。ゲーム開発企業が特許出願を検討する際には、新規性・進歩性の観点だけでなく、特許適格性の観点からも出願可能性を見極める必要がある。

手続きの現状:任天堂の対応期間は2ヶ月

今回の通知は「非最終的な局長通知(Non-Final Office Action)」であり、確定した結論ではない。任天堂には発令から2ヶ月以内(延長申請可)に意見書または補正書を提出し、反論・上訴する権利がある。クレームを絞り込む補正によって一部クレームの維持を目指す可能性も指摘されているが、先行技術4件すべてに対抗するためには相当の限定が必要となる見込みだ。

仮に補正によって特許維持が認められたとしても、クレームの保護範囲が大幅に縮小されれば、競合他社に対する権利行使の実効性は低下する。任天堂が今後どのような対応戦略をとるかは、Palworld訴訟の行方と並んで注目される。

任天堂の特許戦略への影響

本特許は、任天堂が2024年9月にポケットペア社(ゲーム「Palworld(パルワールド)」開発元)に対して提起した特許侵害訴訟において主要な根拠の一つとされていたとみられる。全クレームの拒絶通知は同訴訟の行方にも影響を与える可能性がある

任天堂は長年にわたりゲームメカニクスや操作デバイスに関する特許を戦略的に取得し、競合他社への牽制に活用してきた。しかし今回の事例は、既存ゲームタイトルから先行技術が発掘されれば大企業の特許でも無効化されうることを改めて示した。「キャラクターを仲間として戦わせる」という概念は、ポケモンシリーズをはじめ業界全体に根付いており、それが先行技術の豊富な存在につながっている。

ゲーム・アプリ開発企業にとっては、特許取得前の先行技術調査の重要性と、Section 101を含む多角的なリスク評価の必要性を再認識させる事案だ。特にゲームメカニクス特許については、出願前に業界内の先行事例を幅広く調査し、技術的な新規性が明確に示せるクレーム設計を行うことが、特許戦略の前提として求められる。

この記事について

パテント探偵社 編集部

知的財産の世界で起きている出来事を、ジャーナリズムの手法で報道・分析する独立メディア。特許番号・法的根拠・当事者名を正確に記述しながら、専門家以外にも読みやすい記事を届けています。掲載内容は法的アドバイスではありません。

タイトルとURLをコピーしました