2026年4月2日、米国特許商標庁(USPTO)は、任天堂が保有する特許第12,403,397号に対する非最終拒絶通知(Non-Final Rejection)を発行した。この特許は「サブキャラクターを召喚し、プレイヤーに代わって戦わせる」というゲームメカニクスに関するもので、全26クレームが拒絶された。ポケモンやピクミンシリーズなど任天堂の主要フランチャイズに直結するこの特許の行方が、業界内外の注目を集めている。
問題の特許と「召喚して戦わせる」メカニクス
特許第12,403,397号は2025年9月に正式登録された比較的新しい特許だ。その権利範囲は、プレイヤーキャラクターが別のキャラクター(サブキャラクター)を呼び出し、そのキャラクターが戦闘やタスクをこなす、というゲーム上の仕組みをカバーする。このメカニクスはポケモンシリーズのバトルシステムや、ピクミンにおける部下を指示して障害物を排除する仕組みに代表される、任天堂ゲームの根幹をなす要素だ。
しかし、このメカニクスが特許として成立するかどうかについては、登録当初から疑問の声があった。「キャラクターを召喚して戦わせる」という発想はビデオゲームが誕生した初期から存在しており、過去の多数のゲームに類似の仕組みが見られる。今回のUSPTO拒絶もその点が焦点になった。
拒絶の根拠:任天堂・コナミ・バンダイナムコの先行出願
非最終拒絶通知が引用した先行技術(先行出願)は、皮肉なことに任天堂自身を含む各社の過去の特許出願だった。USPTOは、任天堂、コナミ、バンダイナムコがそれぞれ出願した先行出願が、今回の特許のクレームで主張する技術的特徴を開示していると判断した。すなわち、「召喚して戦わせる」仕組みは既に公知の技術であり、新規性または非自明性の要件を満たさないというのがUSPTOの立場だ。
特許法上、クレームの有効性は①新規性(同一の発明が先行技術に開示されていないこと)と②非自明性(先行技術から容易に発明できないこと)の2点が核心となる。どちらか一方でも欠ければ特許は成立しない。今回のUSPTOの判断は、少なくとも新規性の点で問題があるとするものだ。
局長命令による再審査という異例の経緯
この特許をめぐる経緯はさらに興味深い。2025年11月、USPTOのジョン・A・スクワイアーズ長官は、第三者の申請なしに局長権限で再審査(Director-Initiated Reexamination)を命じた。これはUSPTOが2012年以来初めて行使した「長官主導の再審査」であり、特許コミュニティに大きな衝撃を与えた。通常、再審査は第三者(競合企業など)が申請するものだが、長官自らが問題提起するのは極めて異例だ。
この局長判断の背景には、ゲーム業界と法律専門家から特許の過剰な権利範囲について問題提起が相次いでいたことがある。「ゲームの基本的なメカニクスを特許で独占できるのか」という問いは、ゲーム開発者にとって実務上きわめて重要な論点だ。
Palworld訴訟との関係:日本における差止申請への影響
本件が特に注目を集める背景には、任天堂が日本国内でパルワールド(Palworld)開発元のポケットペアを相手取り起こした特許侵害訴訟との関連がある。任天堂は日本の裁判でこの特許(および関連特許)に基づく差止請求を求めており、米国での特許の有効性判断は日本訴訟の行方にも間接的な影響を与えうる。
ただし、日米では特許制度が異なるため、米国での拒絶決定が直ちに日本の特許を無効にするわけではない。日本の特許庁・裁判所は独自に有効性を判断する。しかし、「召喚して戦わせる」メカニクスに関する先行技術の存在が米国審査で確認されたことは、日本の無効審判や訴訟において先行技術として援用される可能性があり、重要な先例となりうる。
任天堂の対応オプション:補正か、論証か
非最終拒絶通知を受けた特許出願人(または再審査中の特許権者)は、通常2カ月(延長可能)以内にUSPTOへの応答書を提出しなければならない。応答書では主に二つのアプローチが取られる。一つは「クレーム補正」で、権利範囲を先行技術と差別化できるよう絞り込む方法だ。もう一つは「論証(Argument)」で、USPTOの引用した先行技術が現クレームを開示していないと主張する方法だ。
任天堂が補正によって特許を維持しようとすれば、クレームの権利範囲が大幅に狭まる可能性がある。そうなれば、日本国内での訴訟やライセンス交渉においても戦略の見直しが必要になる。一方、論証で押し切れるかどうかは、任天堂の技術的主張の説得力にかかっている。
ゲームメカニクス特許の本質的問題
今回の事案は、ゲームメカニクスに対する特許保護という難題を改めて浮き彫りにした。ゲームのルールやプレイ方法は、コードそのものとは異なり、従来は「アイデア」として特許保護の対象外とされてきた。しかし近年、インタラクティブな動作や画面表示と組み合わせた技術的実装として特許化されるケースが増えている。
特にソフトウェア特許の適格性(Patent Eligibility)をめぐる米国の法的環境は、米国特許庁のSection 101新ガイダンスをはじめとして現在も変化の途中にある。ゲームメカニクス特許については、「技術的課題を解決する具体的な手段か」という観点での精査が今後さらに強化される可能性が高い。
本件の審査経過はUSPTOのPATENT CENTERおよびGoogleパテント(US12403397)で公開されており、任天堂の応答書提出後も注目が続くだろう。また、ポケモン・Palworldをめぐる国内訴訟の動向は特許庁公式サイトや法律専門メディアで随時報告されている。
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