米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は2026年3月31日、電気自動車(EV)充電中の車内気候制御に関する米国特許第10,819,135号を巡るTesla, Inc.(テスラ)対Charge Fusion Technologies, LLC(チャージ・フュージョン・テクノロジーズ)の訴訟において、PTABの判断を一部破棄する判決を下した。レイナ判事が法廷意見を執筆した本判決は、気候制御の継続をバッテリー残量と連動させる仕組みについて、請求項1の解釈と先行技術との関係を再整理し、EVの充電中に車内に残されたペットや乗員の安全を確保する目的で開発された同技術の特許保護の範囲を画定するものである。
同特許(’135特許)はCharge Fusion Technologiesが保有するもので、EVの充電中にエアコンや暖房などの気候制御システムを作動させ続けることを可能にするインテリジェント・チャージング・システムに関する。具体的には、充電中に車内に残されたペットや人の安全を守るため、バッテリー残量が所定のしきい値に達するまで気候制御機能を維持するという仕組みを請求している。TeslaはPTABに対して当事者系レビュー(IPR)の申立てを行い、複数の請求項が先行技術「Hibi」文献によって自明であると主張した。PTABはテスラの主張を退け、問題となった各請求項は自明でないと判断した。テスラはこの決定を不服として連邦巡回区控訴裁判所に上訴した。
CAFCは請求項解釈において重要な修正を加えた。PTABは請求項1を「気候制御機能が充電中のバッテリー残量を勘案して継続する」という意味に解釈していた。しかしCAFCは、’135特許の明文に基づいてより狭い解釈を採用した。すなわち請求項1は「バッテリー残量が所定のレベルに達するまで気候制御を継続させること」を規定するに過ぎず、充電中の残量変化をリアルタイムで考慮して動作を調整することまでは要求していないというものである。この請求項解釈の修正が、自明性判断に直接影響を及ぼした。
修正された解釈のもとで、CAFCは請求項1がHibi文献によって自明であると判断し、PTABの決定を破棄した。Hibi文献には、一定の持続時間にわたってエアコンを自動作動させる機能が開示されており、これが修正後の請求項1の構成要件を充足すると認定された。請求項1の自明性認定を受けて、請求項2~5・7・15についても再考を求めてPTABに差し戻された。一方、請求項8~11・14・16については自明ではないとのPTABの判断を支持した。これらの請求項には「バッテリー残量に基づいて気候制御が可能な残り時間のしきい値を算出する」という要素が含まれており、Hibi文献にはこの点の開示がなかったためである。
この請求項8・14に関する判断は、技術的に重要な意味を持つ。単に「バッテリー残量が一定値を下回ったら気候制御を止める」という仕組みに留まらず、「現在のバッテリー消費速度と残量から、気候制御をあと何分継続できるかを算出してユーザーに通知する」機能は、特許明細書において独自の技術的意義を有すると認められた。’135特許の明細書は、「現在のエアコン設定でバッテリーが枯渇するタイミングを把握せずに15分という通知を正確に行うことはできない」と明示しており、CAFCはこの記載を重視した。Hibi文献はバッテリー残量と継続時間の関係について何ら開示していないため、これらの請求項は先行技術を超える独自性を有すると判断された。
本判決からは、EV関連特許の出願・行使において重要な教訓が得られる。第一に、単純なしきい値トリガー(バッテリー残量が一定値以下になったら動作を停止する)に依拠した請求項は、気候制御や充電管理の分野において先行技術に対して脆弱である。これに対し、バッテリー残量に基づく時間算出アルゴリズムや、ユーザーへの事前通知機能を組み合わせた請求項は、より強固な特許保護を受けられる可能性がある。第二に、請求項の文言と明細書の記載が整合していることが、権利範囲の画定において決定的な役割を果たすことが改めて確認された。
EV充電インフラをめぐる特許訴訟は、業界全体で増加傾向にある。車両内温度管理は人命・ペットの安全に直接関係することから、特許保護の対象として注目度が高まっている。今回の判決はその中で、請求項の抽象度と先行技術に対する耐性のトレードオフを端的に示した事例として、EV関連知財戦略の立案に携わる実務家にとって参照価値が高い。Charge Fusion TechnologiesとTeslaの対立の帰趨については、差し戻されたPTABの審理の行方が引き続き注目される。
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パテント探偵社 編集部
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