TikTokのIPR申請7件をUSPTO長官が無効化——中国政府機関が「真の当事者」か否か争点、Tianma先例を適用

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米国特許商標庁(USPTO)のJohn Squires長官は2026年3月30日、動画共有プラットフォームTikTokがCalifornia州企業Cellspin Softの保有特許に対して申請した7件のinter partes review(IPR=当事者系再審査)を職権で無効化した。Squires長官は、TikTokが中国政府機関を「真の当事者(real party-in-interest)」でないことを立証できなかったと判断し、先例Tianma Microelectronics Co., Ltd. v. LG Display Co., Ltd.に基づく却下を決定した。

IPRは35 U.S.C. § 311(a)に基づき、「person(人)」のみが申請できる制度である。2019年に米国最高裁が下したReturn Mail, Inc. v. United States Postal Service判決は、連邦政府機関は同条の「person」に該当しないため、IPRを申請する資格を持たないと確定した。特許審判・審判部(PTAB)はその後、Tianma Microelectronics事案において最高裁のReturn Mail判決の論理を外国政府機関にも拡張し、中国の国有企業が実質的に手続きの当事者となる場合、同社によるIPR申請は受理されないとの先例を形成した。

Squires長官は今回、このTianma先例をTikTok事案に適用した。決定の核心は、TikTokが中国政府機関を「真の当事者ではない」と証明する義務を果たせなかったという認定にある。TikTokの親会社ByteDance(北京字節跳動科技有限公司)は中国に本拠を置き、中国共産党の「黄金株」制度を通じた政府の影響下にあると米国政府・議会が繰り返し指摘してきた。USPTO長官はこうした政治的・構造的背景ではなく、あくまで手続き法上の要件——真の当事者の立証責任——を根拠として7件のIPR申請を却下した。

却下の対象となったIPRは、Cellspin Softが保有するメディア・コンテンツの無線転送および配信に関する一連の特許に対するものである。Cellspin Softは過去にも複数の大手テクノロジー企業に対して特許侵害訴訟を提起しており、TikTokはIPRを通じてこれらの特許の有効性を争おうとしていた。7件のIPR申請がまとめて無効化されたことにより、Cellspin Softの特許は引き続き有効とみなされ、TikTokに対する訴訟はPTABでの争いの場を失った形となる。

今回の決定は、米中間の地政学的対立がIPR制度の運用に具体的な影響を与えた事例として注目される。Return Mail判決が確立した「政府機関はIPR申請不適格」という原則は、当初は米国政府機関を念頭に置いたものであった。Tianma先例を経て、その射程が外国政府機関にも及ぶと整理された今、中国企業がUSPTOにIPRを申請する際には、自社と中国政府との関係性を丁寧に切り離して説明する実務上の負担が生じることになる。

知財実務の観点からは、中国に事業基盤を持つ企業がIPR制度を活用する場合に、親会社や株主構成に関する開示と立証をいかに設計するかが実務的な課題となる。特に国有企業との資本関係や、「黄金株」に代表される政府影響力の構造が問題となりやすく、出願戦略の段階から企業統治の透明性を確保する必要性が高まっている。

USPTO長官による職権での却下という手続きは、通常のIPR審理プロセスを経ることなく申請自体を早期に排除するものであり、同様の構造的問題を抱える中国企業のIPR申請に対して今後も適用される可能性がある。IPR制度が国際的な知財紛争の主戦場のひとつとなる中、申請適格性をめぐるこの論点は、米国知財制度の運用において引き続き重要な意味を持つ。

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