あの有名ブランドが「商標いじめ」!大企業が中小を攻撃する商標権濫用の実態と自衛策

知財ニュースバナー 商標

有名ブランドが「弱者」を攻撃する商標権濫用の実態

ポケモンをモンスターエナジーが攻撃し、仏具メーカーをルイ・ヴィトンが訴えた。日本でも「商標いじめ」と呼ばれる問題が深刻化している。大企業が自社ブランドと何ら競合関係のない中小企業・個人・非営利団体に対して「商標権侵害」を主張して脅迫的な内容証明を送りつけたり、訴訟を提起したりするケースが後を絶たない。一見すると大企業が「自社の権利を守っている」ように見えるが、実態は「関係のない相手に法的コストを押しつける恫喝」に過ぎないことも多い。なぜこのようなことが起きるのか、そして身を守るにはどうすればいいかを探偵くんが解説する。

具体的な「商標いじめ」の事例

モンスターエナジーがポケモンを商標侵害と主張した件は世界を唖然とさせた。アメリカのエナジードリンクブランド「モンスターエナジー」は「モンスター」という言葉を含む商標に非常に積極的に権利主張することで知られている。「ポケットモンスター(ポケモン)」に対しても商標侵害の主張をした事例があり、世界中から批判を浴びた(Gizmodo報道Game Rant報道)。ポケモンとモンスターエナジーは業種もターゲット層も全く異なるが「モンスター」という単語が共通しているというだけで主張した形だ。任天堂とポケモン社は当然反論しており、この種の主張が認められるケースはほとんどないが、訴訟リスクの圧力だけで相手を萎縮させる効果はある。

ルイ・ヴィトンが日本の伝統模様を使う仏具メーカーに難癖をつけた事例もある。伝統的な日本の市松模様を使った仏具・和雑貨メーカーが、LV(ルイ・ヴィトン)のダミエ柄に似ているとして商標上の問題を指摘されたケースがある。LVのダミエ柄も幾何学的な格子模様だが、日本の市松模様はLVのモノグラムより数百年古い伝統文様だ。特許庁は2021年に「消費者が出所を識別する標識として認識できない」として、LVの主張を退けた(MARKS IP LAW FIRM 解説)。それでも大企業の弁護士からの「内容証明」は中小企業に大きな恐怖とコストを与える。

アップルが「PPAP」のピコ太郎の商標手続きに異議を申し立てた事例もある。「ペンパイナッポーアッポーペン(PPAP)」で一世を風靡したピコ太郎(古坂大魔王)が商標登録を試みた際に、アップルが「Apple」ブランドと混同されるとして異議申立を行ったと報じられた(弁護士JP報道)。音楽エンタメとコンピュータ業界が混同される可能性は通常ほとんどないが、アップルは「Apple」という単語や果物のりんご画像に関して非常に広い商標ポートフォリオを構築しており、関係の薄い分野でも権利主張する姿勢を持つ。特許庁は最終的にPPAPの商標登録を維持する決定を下した。

なぜ大企業は「商標いじめ」をするのか

商標権の「非使用取消」リスクと「希釈化」恐怖が背景にある。大企業がこのような行動をとる主な理由は二つある。第一に、商標権は定期的に「使用」していない場合に取り消されるリスクがある。日本では継続して3年以上使用しない商標は不使用取消審判(商標法第50条)の対象になる。企業は自社商標の権利範囲について積極的に主張し続ける必要がある。第二に「希釈化(dilution)」という概念がある。有名商標が一般的な言葉として広まると独自性を失い保護力が弱まる可能性があるため、類似した使用に対して積極的に権利主張するインセンティブを持つ。

法的コストの非対称性が商標いじめを生む構造的要因だ。大企業には社内知財部門と外部弁護士チームがいるため「内容証明を送る」コストは比較的低い。一方で受け取った中小企業・個人にとっては弁護士費用だけで数十万円から数百万円かかることもある。たとえ法的に問題のない使用であっても、このコスト負担に耐えられず商標の使用を断念してしまうケースが多い。大企業はこの非対称性を意識的・無意識的に利用しているのだ。法学者の間では「商標やくざ(trademark bully)」という言葉まで生まれている。

商標権の「混同可能性」とは何か

商標権侵害が認められるには「混同可能性」が必要だ。商標権侵害が成立するには、単に「似ている」だけでは足りない。問題の商標と登録商標が「類似している」かつ「指定商品・役務が同一または類似している」場合に、消費者が両者を混同する可能性(混同可能性)があると判断されて初めて侵害となる。つまり業種が全く異なる場合には、商標が似ていても侵害にならないケースが多い。ポケモンとモンスターエナジードリンクは業種が全く違うため、通常は混同可能性が認められにくい。しかし大企業は「混同可能性がゼロ」というわけではないとして圧力をかける。

商標いじめへの対抗策

事前の商標登録と使用実績の記録が最大の防御策だ。商標いじめを受けないためには、自社ブランドを先に商標登録しておくことが最も効果的だ。「登録した側」と「登録していない側」では法的立場が大きく異なる。起業・新ブランド立ち上げの際は、販売開始前に商標出願することを強く勧める。また商標を継続して使用していることを示す記録(販売記録・広告物・Webアーカイブなど)を保管しておくことも後の紛争で重要な証拠になる。

不合理な商標主張には専門家を通じて毅然と反論できる。大企業から「商標侵害の可能性がある」という通知を受け取っても、すぐに使用を中止する必要はない。まず弁理士や知財専門の弁護士に相談して実際に侵害に当たるかどうかを確認しよう。業種が異なる、商標の外観・称呼・観念が十分異なる、先使用権がある、などの理由で問題なく使い続けられる場合も多い。相手が大企業だからといって即座に屈服することなく、専門家の助言を得て冷静に対応することが重要だ。

日本での商標いじめ対策の法的手段

日本の商標法には「商標権の不正使用」に対抗するための制度が整備されている。日本の商標法では、商標権者が不正の目的で商標権を行使した場合などに、商標登録の取消しを求める審判を申請できる仕組みが存在する。また、商標権の濫用的な行使に対しては「権利の濫用」として、民法上の権利濫用法理(民法1条3項)が適用される場合もある。裁判所が「この権利行使は目的に照らして不相当だ」と判断すれば、大企業からの差し止め請求が認められない可能性がある。中小企業がすぐに弁護士費用を払えなくても、法テラス(日本司法支援センター)などの公的支援機関が相談・費用立替の制度を設けている。

事前の商標調査がすべての商標トラブルを未然に防ぐ最善策だ。商標いじめを防ぐ最も現実的な対策は事前の商標調査だ。特許庁が提供する無料データベース「J-PlatPat」では登録済みの商標を誰でも検索できる。ブランド名・ロゴ・商品名を決める前に類似した商標が登録されていないかを確認し、問題があれば名称を変更するか商標登録申請を急ぐ。また自社の商標を登録しておけば、他者に先取りされるリスクも減る。「知らなかった」ことが最大のリスクであり、「知っておくこと」が最大の防御だ。知財の世界では、防御と攻撃の両面で「先手を打つ」ことが何より重要だ。

海外でも起きる商標いじめ──グローバル企業の商標管理の実態

商標いじめは日本国内だけでなく、海外でも日本企業が被害を受けるケースがある。日本のブランドが海外市場で知名度を上げるにつれ、現地の大手企業や商標ブローカーが「類似している」として商標上の問題を主張するケースが増えている。特に欧米や中国での商標管理は日本市場とルールが大きく異なる。欧米系の大企業は法務部門のリソースが豊富で、コスト的に優位な立場から中小規模の日本企業に圧力をかけることがある。海外展開を考える日本企業は、ターゲット市場の商標法の特徴と、現地で起こりうる商標リスクを事前に把握しておく必要がある。

「著名商標」の認定を早期に受けておくと強力な防御盾になる。日本では自社の商標が「著名商標」(周知性が極めて高い商標)として認定されると、指定商品・役務を超えた広い範囲で保護が受けられる。例えば「Google」「Apple」「Sony」などは著名商標として他の業種での類似商標出願も拒絶される可能性がある。中小企業が著名商標の認定を受けることは容易ではないが、自社ブランドを地道に育て、認知度を高め、使用実績を記録しておくことで将来の保護力を強化できる。知財は「今日の投資が明日の防御になる」長期戦だ。

まとめ

商標は「守る道具」であり、使い方次第で「攻撃の武器」にもなる。商標権は本来、自社ブランドをコピーから守り消費者が正しい製品・サービスを選べるようにするための制度だ。しかし一部の大企業はこれを「中小企業を恫喝する道具」として使っている。このような商標権の濫用は公正な競争環境を害するものだ。スタートアップや中小企業の経営者は商標の基礎知識を身につけ、不当な攻撃から自衛できるよう備えてほしい。探偵くんは知財の世界で「知ることが最強の武器」だと信じている。

知財リテラシーを高めることが「商標いじめ」に対する最大の防御だ。「大企業から商標の通知が来た=自分が悪い」という誤解が最大の落とし穴だ。実際には不当な主張であるケースも多く、知識と専門家のサポートがあれば十分に対抗できる。商標法の基本を学び、J-PlatPatで自社ブランド周辺の商標状況を定期的に確認し、自社商標は早めに登録しておく。この三つを実践するだけで、多くのトラブルを事前に防げる。探偵くんは「知ること」が最強の武器だと信じている。

商標は「取ってから守る」から「守るために取る」という意識の転換が重要だ。商標登録は単なる手続きではなく、自社ブランドへの「先行投資」だ。ブランドを育てるのと同じタイムラインで商標を管理することで、「知らないうちに商標の地雷を踏む」という最悪の事態を避けられる。探偵くんは全国の起業家・中小企業経営者が知財トラブルに巻き込まれないよう、引き続き情報を発信していく。

知財の世界で「知識を持つこと」が最強の盾になる。商標の基本を知り、定期的に調査し、自社ブランドを守る行動を今日から始めよう。

この記事について

パテント探偵社 編集部

知的財産の世界で起きている出来事を、ジャーナリズムの手法で報道・分析する独立メディア。特許番号・法的根拠・当事者名を正確に記述しながら、専門家以外にも読みやすい記事を届けています。掲載内容は法的アドバイスではありません。

タイトルとURLをコピーしました