米国際貿易委員会(ITC)は2026年4月19日、マシモ(Masimo Corporation)が申請したアップルウォッチの輸入禁止措置の再発動を却下した。ITCは2026年3月18日に行政法判事(ALJ)が下した初期決定を支持し、アップルが設計変更を施した最新モデルのアップルウォッチはマシモの主張する特許クレームを侵害しないと最終的に認定した。この決定により、2023年に端を発した一連のITC手続きは実質的に終結した。
本件はITC337条手続き(事件番号:337-TA-1276)として審理された。マシモは血中酸素飽和度(SpO2)を非侵襲的に測定するパルスオキシメトリー技術に関する複数の特許(米国特許第10,945,648号など)を保有しており、アップルウォッチ シリーズ9およびUltra 2に搭載された血中酸素測定機能がこれらの特許を侵害しているとして、2022年にITCへ申立を行った。
2023年10月、ALJの初期決定はアップルウォッチが2件のマシモ特許を侵害していると認定した。同年12月にITC全委員会がこの初期決定を支持し、輸入禁止命令の発動が確定した。バイデン政権はこの命令に対し大統領拒否権を行使せず、アップルは2024年1月から対象モデルのアップルウォッチの米国内販売を一時停止した。
その後アップルは問題となった血中酸素測定機能を削除した改良版アップルウォッチを米国市場向けに投入した。さらに2024年8月には機能を再実装したが、測定データをアップルウォッチ本体ではなく連携するiPhoneやiPad上に表示するという方式に変更した。米国税関・国境警備局(CBP)はこの改良版が既存の輸入禁止命令の適用外であると認定している。
マシモはこの改良版もなお自社特許を侵害しているとしてITCに再審査を求めたが、ALJは2026年3月18日の初期決定においてアップルの設計変更が特許クレームを回避していると判断した。ITCは2026年4月19日にこの初期決定を追認し、マシモの審査請求を却下した。9to5Macの報道およびMacTechの報道によれば、ITCはマシモの申請を退けてケースを閉結したと確認されている。
マシモは今回のITC決定に対し、連邦巡回控訴裁判所(Federal Circuit)に上訴することが引き続き可能である。ただし、ITC手続きの閉結によってアップルウォッチの輸入継続に直接支障が生じる可能性はなくなった。
並行して進行中の連邦地方裁判所訴訟(カリフォルニア中部地区)においては、マシモが2024年に6億3400万ドルの陪審評決を獲得している。この地裁訴訟はITCの手続きとは独立して継続中であり、今回のITC決定はその結果に直接影響するものではない。
アップルは今回の紛争を通じ、ITC手続きにおいて設計変更(デザイン・アラウンド)戦略を実行した。特許侵害リスクに直面した製品開発者が機能の削除や代替設計を採用することで輸入禁止措置を回避するという手法は、ITC実務において重要な戦略オプションとして位置づけられている。ただし今回のケースでは、設計変更の代償としてアップルウォッチの血中酸素測定機能は一時的に大幅に制約された。
マシモの立場からみれば、スタートアップ企業が大企業の特許侵害に対してITCおよび連邦地裁の両チャネルを通じて権利行使を試みた事案として注目に値する。ITC手続きにおける輸入禁止措置という強力なツールを用いながらも、被申立人による設計変更が認められれば排除命令の継続的な効力が制限されるという実務的な限界が浮き彫りになった事案でもある。
今後の注目点は連邦地裁訴訟の行方である。6億3400万ドルの陪審評決は控訴審で維持されるかどうか、また両社が和解交渉に移行するかどうかが今後の焦点となる。
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パテント探偵社 編集部
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