OpenAI社は2026年4月17日、AI動画生成サービス「Sora」内の機能名称「Cameo」をめぐる商標侵害訴訟において、米国連邦第9巡回区控訴裁判所への控訴を取り下げた。同社が2026年3月24日に発表したSoraの停止決定により、差止命令への対抗手段としての控訴は実質的な意義を失ったと判断したとみられる。
事件の経緯
本件は、著名人との個人動画サービスを展開するCameo Group, Inc.(以下、Cameo社)がOpenAI社を相手取り、2024年10月に提起した商標侵害訴訟が発端である。OpenAI社は同年公開したAI動画生成サービス「Sora」内に、ユーザーが著名人コンテンツ風の動画を作成できる機能として「cameo(カメオ)」の名称を使用した。Cameo社は、この名称の使用が同社の登録商標との混同を生じさせるとして差止めを求めた。
カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所のユミ・K・リー判事は2026年2月14日、OpenAI社に対して「Cameo」の名称使用を禁じる仮差止命令(preliminary injunction)を発令した。OpenAI社はこれを不服として2026年3月12日に第9巡回区控訴裁判所へ控訴を申し立てたが、同月24日にSoraサービス全体の停止方針を発表したことを受け、4月17日に控訴を取り下げた。
なお、OpenAI社はリー判事による仮差止命令の発令後、Sora内の当該機能の名称をすでに「Characters(キャラクターズ)」に変更しており、製品レベルでの差止命令遵守は早期に実現していた。
Sora停止の背景
OpenAI社がSoraを停止した理由として、同社は動画生成に充てていた計算リソースを、収益性の高いコーディング・推論・テキスト生成タスクへ再配置する必要性を挙げている。Soraの運営コストは1日あたり推定100万ドルとされており、OpenAI社が近く予定するIPO(新規株式公開)を前に財務効率を優先したとみられる。Soraのウェブ・アプリサービスは2026年4月26日に停止予定であり、API提供は2026年9月24日まで継続される。なお、SoraをめぐってはDisney社が10億ドル規模の出資計画を撤回する事態も生じた。
商標実務への示唆
本件は、AI企業が急速にサービスを拡大する過程で既存ブランドとの商標衝突が生じるリスクを具体的に示す事例として注目される。OpenAI社の「Cameo」機能は、著名人との動画サービスで広く認知されたCameo社の商標と語として同一であり、エンターテインメント・コンテンツという同一の需要者層を対象としていた点で、混同可能性(likelihood of confusion)が高く認定されやすい状況にあった。
消費者向けAIサービスにおいて機能・モデルに固有名称を付与することが一般化している現在、名称選定の段階での商標調査(トレードマーク・クリアランス)の重要性が改めて浮き彫りになった。控訴の取下げにより仮差止命令をめぐる争いは終結したが、原告Cameo社の本訴請求(商標侵害による損害賠償等)は引き続き地方裁判所で係属している可能性があり、今後の審理動向が注目される。
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パテント探偵社 編集部
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