「最初から根拠なし」——米最高裁がEscapeX対Google特許訴訟の上告を棄却、254,827ドルの制裁金が確定

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米国連邦最高裁判所は2026年4月27日、特許権者EscapeX IP, LLCが提出した上告受理申立(certiorari petition)を棄却した。これにより、U.S. Court of Appeals for the Federal Circuit(CAFC)が2025年11月25日に下した判決が終局的に確定し、Googleに対して254,827ドルを超える弁護士費用および制裁金の支払い義務が生じた。根拠のない特許訴訟に対する35 U.S.C. § 285「例外的事件」制度と、代理弁護士個人に課される28 U.S.C. § 1927制裁の射程を再確認した事例として、米国特許訴訟実務に携わる関係者の注目を集めている。

事件の背景:YouTube Musicをめぐる特許訴訟

EscapeX IP, LLCは、「アーティストが指定したルールに基づいて動的アルバムを生成するシステム・方法」を請求するU.S. Patent No. 9,009,113を保有する非実施主体(NPE: Non-Practicing Entity)である。2023年、同社はGoogleのYouTube MusicがこのFour-claim特許を侵害していると主張し、テキサス西部地区連邦地裁(W.D. Tex.)に提訴した。テキサス西部地区は近年、判事Alan Albright裁判官(2026年8月に辞職予定)の下で特許訴訟の一大集積地として知られてきた地裁である。

提訴後の経緯は、EscapeX IPにとって厳しいものとなった。Googleは詳細な製品分析を通じて「原告が侵害と主張した機能がYouTube Musicに存在しない」ことを指摘した。EscapeX IPは訴状を修正して侵害対象を「自動追加(Auto-Add)」機能に変更したが、今度はGoogleがこの機能の実装時期が本件特許の優先日(priority date)よりも前であることをデータで証明した。さらに、EscapeX IPと別の当事者との間で並行して進行していた訴訟において、同一特許が35 U.S.C. § 101(特許適格性)違反として無効と判断されるという事態も生じた。

地裁の認定:「提訴当初から根拠なし」

テキサス西部地区連邦地裁は、こうした一連の事実関係を踏まえ、二つの法的根拠に基づいてGoogleへの費用支払いを命じた。

第一は35 U.S.C. § 285(弁護士費用)である。同条は「例外的事件(exceptional case)」において勝訴当事者が負担した弁護士費用の支払いを命じる裁量権を裁判所に付与する。2014年の米最高裁判決Octane Fitness v. ICON Health & Fitnessが認定基準を従来の明確かつ説得力ある証拠基準から優越証拠基準(preponderance of evidence)に引き下げたことで、裁判所はより容易にこの認定を行えるようになった。地裁は「EscapeX IPは事前調査を一切行わず、本件訴訟は提訴当初から根拠のないものであった(frivolous from the start)」と認定し、191,302ドルの弁護士費用支払いを命じた。

第二は28 U.S.C. § 1927(費用増大制裁)である。一審での弁護士費用命令に対してEscapeX IPとその代理弁護士が提出した判決変更申立(motion to amend the judgment)の内容が根拠を欠くと認定し、EscapeX IPとその代理弁護士に対して追加63,525ドルを連帯して(jointly and severally)支払うよう命じた。合計制裁額は254,827ドルを超えた。

CAFCの判決(2025年11月25日)

CAFCはCase No. 24-1201(2025年11月25日)において、地裁の判断を全面的に維持した。

§ 285の「例外的事件」認定については、EscapeX IPが①被疑侵害製品の特定を誤り、②改めて特定した機能の実装時期が特許優先日以前であることを確認せず、③同一特許に対する§ 101無効判断が下された後も訴訟を継続した——という複数の事実が、認定を支持する十分な証拠として挙げられた。

代理弁護士への§ 1927の適用については、CAFCは重要な判断を維持した。すなわち、§ 1927による制裁は「主観的悪意(subjective bad faith)の明示的認定」を必要とせず、「客観的に根拠のない申立てを継続する無謀な行為(reckless conduct)」があれば制裁の成立要件を満たすとした。弁護士が主観的に勝訴可能と信じていたとしても、その申立てが客観的に無根拠と評価される場合は制裁の対象となる。

最高裁への上告と棄却

EscapeX IPは2026年3月に連邦最高裁判所への上告受理申立を提出した。申立の核心は「§ 1927制裁を弁護士に課すには主観的悪意の明示的認定が必要か否か」という法律問題であり、控訴裁判所間での法解釈の分裂(circuit split)の解消を最高裁に求めるものだった。Googleは申立てへの回答書(response)を提出しなかった。

IPWatchdogが報じた通り、最高裁は2026年4月27日付で上告受理申立を棄却した(cert. denied)。理由は示されていない。これにより、CAFCの判決が終局的に確定した。

実務への示唆

本件は米国特許訴訟実務において複数の重要な教訓を提供している。

第一に、訴訟提起前の事前調査(pre-suit investigation)の充実が不可欠であることが改めて示された。§ 285の「例外的事件」認定は、単に訴訟に負けただけでは発生しない。しかし本件のように、被疑侵害製品の誤認・侵害機能の実装時期未確認・別訴での無効判断の無視という複数の問題が積み重なれば、裁判所は積極的にこの認定を行う。

第二に、§ 1927の制裁が代理弁護士個人に及ぶ点への注意が改めて求められる。依頼人から指示を受けた弁護士であっても、客観的に根拠のない申立てを提出した場合は連帯責任を問われうる。今回の最高裁の棄却により、CAFCの「主観的悪意不要」の立場が少なくとも現時点では連邦最高裁によって黙示的に支持された形となった。

第三に、NPEによる特許訴訟の濫用抑制という政策的文脈においても、本件は参照値となる。§ 285・§ 1927の組み合わせによる制裁は、訴訟前の精査を促す抑止力として機能しており、その効果はテキサス西部地区に限らず全国に及ぶ。

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パテント探偵社 編集部

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