連邦巡回控訴裁、Teva対Lilly事件でCGRP抗体特許の1億7,700万ドル評決を復活——Amgen最高裁判決の射程を抗体方法クレームに限定

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U.S. Court of Appeals for the Federal Circuit(CAFC)は2026年4月16日、テバ・ファーマシューティカルズ・インターナショナルGmbHほかが提起したイーライリリー・アンド・カンパニーに対する特許侵害訴訟の控訴審において、地裁が取り消していた1億7,700万ドル(約267億円)の陪審評決を復活させる判決を下した。本件は、2023年に米最高裁が下したAmgen v. Sanofi判決で示された実施可能要件(enablement)の厳格な基準が、抗体そのものを請求する組成クレームと、抗体の使用方法を請求する方法クレームとで、どのように異なって適用されるかを明示した点で重要である。

事件の背景:CGRP経路をめぐる片頭痛治療薬の特許競争

カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP: Calcitonin Gene-Related Peptide)は、片頭痛発作時に血管拡張および三叉神経血管系の活性化を引き起こす神経ペプチドとして知られる。2000年代に入り、CGRP経路を標的とした抗CGRP抗体が片頭痛予防の新たなアプローチとして注目を集め、複数の製薬企業が研究開発を競った。

テバはU.S. Patent No. 8,586,0459,884,907、および9,884,908を保有する。これらの特許は「ヒト化抗CGRP拮抗抗体を片頭痛治療に使用する方法」を請求するものであり、テバが上市した片頭痛予防薬AJOVY(fremanezumab)の特許保護の核心をなす。

一方、リリーが開発・販売するEmgality(galcanezumab)もCGRP経路を標的とするヒト化モノクローナル抗体であり、両製品はほぼ同時期(2018年9月)に米食品医薬品局(FDA)の承認を取得した。テバはリリーがAJOVYの上市前からEmgalityの開発を進めていた行為が上記3特許を侵害すると主張し、マサチューセッツ地区連邦地裁に提訴した。

陪審評決と地裁によるJMOLの付与

陪審は故意侵害(willful infringement)を認定し、テバに対して1億7,700万ドルの損害賠償を支払うよう命じる評決を下した。しかしマサチューセッツ地区連邦地裁は、リリーの申立てを認め、判決として法律問題(JMOL: Judgment as a Matter of Law)を付与した。地裁は、テバの特許明細書が「ヒト化抗CGRP拮抗抗体のジーナス(属)」を当業者が実施できる程度に開示していないとして、Amgen判決の厳格な実施可能要件を適用し、特許を無効とする判断の基礎を置いた。

CAFCの判断:Amgenは方法クレームに直接適用されない

CAFCの判決(Case No. 24-1094、2026年4月16日)は、地裁のJMOL付与を覆し、陪審評決を復活させた。

CAFCが示した核心的な法律判断は以下の通りである。

2023年のAmgen Inc. v. Sanofi最高裁判決は、抗PCSK9抗体のジーナスを機能的に定義した組成クレーム(composition claims)に対して厳格な実施可能要件を適用した。当該クレームは「抗体そのもの」を請求対象としており、多様な構造を持つ無数の抗体を実施可能にするためには特許明細書がより広範な開示を要するとした。

これに対し、テバの本件特許が請求するのは「ヒト化抗CGRP拮抗抗体を頭痛治療に使用する方法(method of treatment)」である。CAFCは、方法クレームにおける実施可能要件は組成クレームとは異なる分析を要すると判示した。特に、ヒト化抗CGRP拮抗抗体の製造方法および抗体のヒト化技術そのものは、本件特許の優先日(2006年11月)時点で当業者に広く知られており、リリー自身もIPR(当事者系レビュー)の場においてそのような主張を行っていた。こうした技術的成熟度を踏まえれば、テバの明細書の開示レベルは方法クレームを実施可能にするに足ると、合理的な陪審が認定できるとした。

故意侵害と損害賠償の取り扱い

CAFCはJMOLの取り消しと陪審評決の復活を命じた一方、リリーが一審で提出した他の法律上の主張(クレーム解釈の誤りの主張など)については地裁に差し戻した。最終的な損害額の確定には追加の手続が必要となる見通しである。

故意侵害の認定については、陪審評決を支持する実質的な証拠が存在するとしてCAFCはこれを維持した。

製薬特許実務への示唆

本判決は製薬・バイオテクノロジー分野の特許実務に重要な指針を提供する。

第一に、Amgen判決の射程が明確化された。同判決の厳格な実施可能要件は主として機能的に定義された抗体ジーナス組成クレームに適用され、既知の抗体ジーナスの治療的使用を請求する方法クレームには同一基準は直接適用されない。出願戦略においてクレームタイプの選択が実施可能要件のリスクに直結することが改めて示された。

第二に、技術成熟度(art maturity)が実施可能要件の分析に決定的な役割を果たす点が確認された。優先日時点でヒト化抗体技術が「当業者に広く知られた日常的な技術」であったという事実は、テバの方法クレームにおける実施可能性を肯定する重要根拠となった。逆に、新興技術領域では同じ議論は成立しにくい。

第三に、CGRP経路を標的とする片頭痛治療薬市場では、テバ(AJOVY)・リリー(Emgality)・アムジェン(Aimovig、抗CGRP受容体抗体)が競争状態にある。本判決はCGRP関連特許の有効性をめぐる今後の訴訟・ライセンス交渉に影響を与えうる。Patently-Oはこの判決を「Amgenの射程を限定する重要な境界線」と評した

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パテント探偵社 編集部

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