IPR申請件数、2012年以来の最低水準へ急落――ex parte再審査が初めてIPRを逆転、米国特許無効化手続きの地図が塗り替わる

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米国特許商標庁(USPTO)のジョン・スクワイアーズ長官の方針転換を受け、特許付与後の無効化手続きとして広く利用されてきたインタパルテスレビュー(IPR)の申請件数が歴史的な低水準まで落ち込んでいる。2026年5月2日時点の直近28日間のIPR申請件数はわずか11件と、2012年9月のIPR制度開始以来、最も少ない4週間周期を記録した。同期間の件数は、2021年から2025年半ばにかけて安定していた80件から130件という水準と比較して、文字どおり桁違いの縮小である。

この激変を背景に、長年IPRに押され気味だったex parte再審査(以下「再審査」)が台頭した。2026年第1四半期(1月〜3月)のIPR申請件数は前年同期比で66.3%減少した一方、再審査請求件数は同期比157.1%増と急増している。ex parte再審査が申請件数でIPRを上回るのは、特許法改正法(AIA)によりIPR制度が導入された2012年以降で初めてのことである。Patently-Oの統計分析(2026年5月2日付)によれば、2021年初頭から2025年半ばにかけて28日間で20〜40件に収まっていた再審査請求は、2025年秋以降に急激な上昇に転じ、直近では28日間で130件を超えるピークを記録している。

スクワイアーズ体制下での方針転換

IPR申請の崩壊は段階的に進んだ。まず代理長官コーク・モーガン・スチュワートの在任期間(2025年前半)に申請件数の緩やかな減少が確認され、続いてジョン・スクワイアーズが長官に就任した2025年秋以降に急落が加速した。スクワイアーズ長官は就任後、特許審判審判部(PTAB)によるIPRの開始を事実上ゼロに近づける「拡大裁量拒絶(expanded discretionary-denial)」政策を推し進めており、申請者側のコスト負担が回収見込みのない埋没費用となるリスクが現実化している。

IPR申請件数が一桁台フロアに向けて収束しつつある現状は、制度設計上の問題を突きつける。IPRは申請費用だけで数万ドルに達するうえ、弁護士費用を含めれば総コストは数十万ドル規模になるのが通常だ。長官が全件あるいは大半の案件を不開始とする運用を続ける限り、潜在的な申請者にとって経済的合理性は著しく損なわれる。

なぜex parte再審査が急増するのか

ex parte再審査への移行は、二つの構造的な優位性によって説明される。第一は禁反言(estoppel)の問題である。35 U.S.C. § 315(e) の規定により、IPRで特許無効を争い最終書面決定まで進んだ当事者は、「合理的に提示し得た根拠」についてその後の地方裁判所での無効主張が封じられる。これに対し、再審査の結果が特許維持であっても、同一当事者が地方裁判所で改めて無効論を展開することは原則として妨げられない。ライセンス交渉において強い交渉カードを維持しながら特許の有効性に疑義を呈したい企業や、将来の訴訟に備えてオプションを温存したい被告企業にとって、この点は決定的な差異となる。

第二は匿名申請の継続的な活用可能性である。再審査は第三者が匿名で請求できる制度であり、真の利害関係者を秘匿しながら特許の有効性を争う手段として引き続き機能する。ただし、USPTOは2026年2月6日付でガイダンスを更新し、過去にIPRまたはPGR(付与後レビュー)の最終書面決定が下された特許について、匿名請求者に対し「真の当事者が当該IPR/PGR申請者またはその利害関係者でない」旨の積極的証明を義務付けた。これはIPRの裁量拒絶を意識した抜け道的な「第二のバイト」利用を抑制するための措置と位置付けられる。

特許オーナー側の新たな手続き

再審査件数の急増を受け、USPTOは2026年4月1日付官報通知(Official Gazette Notice)で新たな事前意見書(pre-order paper)制度を導入した。同制度は2026年4月5日以降に提出された再審査請求に適用され、特許権者は請求から30日以内に30ページ以内の意見書を無料で提出し、引用先行文献が「実質的な新たな特許性問題(substantial new question of patentability; SNQ)」を提起しないと主張できる。これはUSPTOが再審査開始を決定する前の段階で、特許権者に初めて実質的な反論機会を付与するものである。

実務的含意

こうした制度的変容は、特許戦略の立案に直接的な影響を与える。特許侵害を主張される被告企業は、従来のIPRを第一選択として位置付ける戦略を見直す必要があり、代替手段としてのex parte再審査に加え、地方裁判所での無効抗弁、ITC調査申請など複数の手段を組み合わせた対応が求められる。NPE(ノンプラクティスエンティティ)にとっては、IPRによる特許取消リスクが低下した反面、再審査という経路が依然として残されている点に留意が必要だ。2026年4月時点でIPR申請件数が一桁台で推移する中、スクワイアーズ長官の裁量拒絶方針がいつまで維持されるかが今後の焦点となる。

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パテント探偵社 編集部

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