キュアバック、モデルナのCOVID-19ワクチン「Spikevax」でmRNA特許10件侵害を主張――デラウェア連邦地裁に提訴

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ドイツのバイオテク企業キュアバック(CureVac SE、現バイオンテック子会社)は2026年4月24日、モデルナ(Moderna, Inc.)のCOVID-19ワクチン「Spikevax」がキュアバックのメッセンジャーRNA(mRNA)技術に関する特許10件を侵害するとして、デラウェア州連邦地裁に特許侵害訴訟を提起した。Reuters・Bloomberg Lawが同日報じた。キュアバックはSpikevaxの全世界売上に基づくロイヤルティ相当の損害賠償を求めている。

主張される侵害特許と技術的争点

訴状によれば、キュアバックが主張する10件の特許はいずれもmRNAの安定化技術および核酸化学修飾技術に関するものとされる。mRNAは常温では極めて不安定であり、ワクチンとして機能させるためにはmRNA分子を安定的に送達するための化学修飾(疑似ウリジン置換など)と脂質ナノ粒子(LNP)製剤技術が不可欠となる。キュアバックはこれらの基盤技術をモデルナが無断で使用し、「Spikevax」を開発・製造・販売したと主張している。

モデルナは声明の中で「訴訟の提起を認識しており、徹底的に争う」とコメントした。技術的独自性の証明、特許有効性の争い、および損害額の算定が今後の主要な訴訟争点となる見通しだ。

mRNAワクチン特許訴訟の全体像

今回の訴訟は、新型コロナウイルスワクチン市場で生じた巨大な収益をめぐる特許紛争群の最新章である。IAM Mediaの集計によれば、2026年時点でモデルナは9つの(グループの)権利者から特許侵害を主張されており、そのうち4件が2026年に入ってからの新規提訴である。

時系列で主要な訴訟を整理すると以下の通りだ。2022年以降、Alnylam Pharmaceuticalsがモデルナに対しLNP技術特許の侵害を主張して複数の訴訟を提起。GlaxoSmithKlineおよびBayerも相次いでモデルナを提訴した。2026年2月にはバイオンテック自身がモデルナの次世代ワクチン「mNEXSPIKE」(旧称mRNA-1283)に対して特許侵害訴訟をデラウェア州地裁に提起している。今回のキュアバック訴訟はこの流れを受けた追加的な提訴となる。

バイオンテック・グループとモデルナの対立軸

キュアバックは昨年バイオンテックに買収され、バイオンテック・グループ傘下に入った。バイオンテックはファイザーとの提携でComirnaty(コミナティ)を開発し、SpikevaxとCOVID-19ワクチン市場を分け合ってきた競合関係にある。今回の訴訟は、バイオンテック・グループとモデルナという対立軸における知財戦略の一環として位置づけることができる。バイオンテックによる2026年2月の直接提訴と、子会社キュアバックによる今回の提訴を合わせると、バイオンテック・グループはモデルナに対して少なくとも2本の独立した特許訴訟を同時進行させていることになる。

パンデミック収益の知財帰属をめぐる構造問題

mRNAワクチン特許紛争の多発は、パンデミック緊急時に急速展開されたプラットフォーム技術の知財帰属という構造的問題を反映している。モデルナはCOVID-19ワクチン「Spikevax」で累計数百億ドル規模の収益を上げた。しかし、そのもととなるmRNA技術基盤の多くは複数の研究機関・企業が長年にわたって積み重ねた発明の上に成立しており、誰がどの技術の正当な権利者であるかをめぐる争いが訴訟という形で顕在化している。

本件の審理には数年単位の時間がかかることが見込まれ、最終的な特許有効性・侵害の認定およびロイヤルティ算定の判断は、mRNA技術の将来的なライセンス体系にも影響を与えうる重要な先例となる可能性がある。

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パテント探偵社 編集部

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