連邦巡回区控訴裁判所、特許クレームの「about(約)」は内部矛盾のある明細書では不確定と判示——Enviro Tech対Safe Foods

知財ニュース

2026年5月4日、米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は先例拘束性を有するルイ判事(Judge Lourie)執筆の判決において、食品衛生関連の特許請求項に用いられた「about(約)」という表現が35 U.S.C. § 112(b)の確定性要件(definiteness requirement)を満たさないとした地方裁判所の判断を支持した。事件名はEnviro Tech Chemical Services, Inc. v. Safe Foods Corp.、事件番号24-2160(CAFC 2026年5月4日)。

事案の概要

原告・控訴人のEnviro Tech Chemical Services, Inc.(以下Enviro Tech)は、米国特許第10,912,321号「冷却槽内での食鳥処理における過酢酸を用いた処理方法(Methods of Using Peracetic Acid to Treat Poultry in a Chill Tank During Processing)」を保有し、Safe Foods Corp.に対して特許侵害を主張した。

問題となったクレーム1は、「過酢酸溶液の抗菌有効量(an antimicrobial amount of a solution of peracetic acid)」および「約7.6〜約10のpH(a pH of about 7.6 to about 10)」を含む処理方法を請求していた。Safe Foodsはクレーム解釈の段階で、これらの表現が確定性を欠くと主張した。

CAFCの判断

CAFCは、「about」のような近似表現(terms of degree)は必ずしも不確定ではなく、適切な状況では許容されると確認した。しかし、確定性要件を満たすには当業者が明細書および出願経過に照らして権利範囲を「合理的な確実性(reasonable certainty)」をもって特定できなければならないとした。

本件において問題となったのは、明細書が複数の実験結果を開示しており、それが相互に矛盾していた点である。一部の実験では0.3のpH偏差を許容範囲として扱っていた一方、大規模商業試験では0.35〜0.5の偏差が記録されていた。CAFCはこの内部矛盾について、明細書の沈黙よりもむしろ積極的に不確定性を招く状況——「明細書が多くを語り過ぎた(said too much rather than too little)」——と評価した。

さらに、Enviro Techは出願経過全体を通じて「about」の意味を一貫して説明しておらず、特定のクレームでは重要語として扱い、別のクレームでは無関係として扱うなど、用語の使用に一貫性を欠いていた。この不一致も確定性を否定する方向で作用した。

実務上の意義

本判決は「約」「おおよそ」「実質的に」などの近似表現を含むクレームを有する特許権者および出願人に対して重要な示唆を与える。

第一に、近似表現の数値的範囲は明細書において一貫して定義されなければならない。複数の実施例が異なる許容偏差を示唆する場合、それが権利範囲の境界を曖昧にするリスクがある。第二に、出願経過においても近似表現の技術的根拠を一貫して説明することが重要であり、クレームによって取り扱いを変えることは回避すべきである。第三に、先例拘束性を持つ本判決はCAFCとして§ 112(b)における近似表現の解釈指針を明示したものであり、今後のクレーム解釈や有効性争いにおいて参照されることが予想される。

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パテント探偵社 編集部

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