EPO、PCT通知を2026年6月1日からePCT経由の電子配信に移行——ペーパーレス審査が一段階前進

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欧州特許庁(EPO)は、2026年6月1日から、特許協力条約(PCT)に関する通知書類を、世界知的所有権機関(WIPO)が運営するePCTサービス経由の電子通知に切り替える。これまで国際出願人および代理人は、EPOから紙の郵便でPCT関連の通知を受け取っていたが、原則として全ePCT利用者がオンラインで通知を受領できるようになる。EPOがペーパーレス審査を全面的に推進する取り組みの一環であり、PCT実務における中継機関とのコミュニケーション手段が大きく変わる節目となる。

EPOはPCTにおいて受理官庁(RO)、国際調査機関(ISA)、国際予備審査機関(IPEA)の3つの役割を担っており、出願人にとって最も頻繁にやり取りが発生する国際特許機関の一つである。今回の変更により、サーチレポート、書面意見、国際予備審査報告書、各種補正・是正の通知、料金関連の連絡など、PCT手続上の幅広い書類が電子通知の対象となる見込みである。EPOによれば、PCTルートを利用してEPOに到達する国際出願は年間8万件規模に達しており、本切り替えは欧州を経由するPCT実務の中心的なインフラ更新となる。

ePCTシステムの位置づけと2025年12月のバージョン更新

ePCTは、WIPOが提供するPCT出願管理プラットフォームで、出願人・代理人・各国特許庁の三者が同一のシステム上で書類授受、ファイル閲覧、料金支払、優先権書類管理などを行える。2025年12月8日に展開されたバージョン4.16では、「eNotifications」と呼ばれるオンライン通知配信機能が新たに搭載された。今回EPOが2026年6月1日からePCT経由の通知配信を開始するのは、この機能を活用する形である。

これまでも一部の国際機関や指定官庁はePCT上での電子通知に対応していたが、EPOはPCT出願者にとってもっとも訪問頻度の高い機関の一つであり、その本格切り替えはPCT実務全般のデジタル化に大きな弾みをつけるものと位置付けられている。

出願人・代理人にとっての実務上の変更点

2026年6月1日以降、EPOは原則として紙の通知書類を発送しなくなる見通しである。出願人・代理人は、ePCTアカウントを保持し、関連する出願に対するアクセス権限(ePCT eOwnership)を設定しておくことが必須となる。アクセス権の設定が遅れていた場合、EPOからの重要な通知がオンライン上で見えず、応答期限を徒過するリスクがある。

各事務所では、PCT出願ごとにePCTアクセス権が適切に設定されているか、eNotificationsの受信設定が有効になっているか、通知メールアドレスが現在の代理人・担当者に正しく紐づいているかを、6月1日までに点検する必要がある。EPOはこれまで、ePCT eOwnershipの登録手続を簡素化するための一連のガイダンスを公開しており、未登録の出願については早期の対応が推奨されている。

応答期限の起算と「電子送達」の法的効果

PCT規則上、通知の送達日は応答期限の起算日となるため、電子通知への切り替えは期限管理の実務にも影響する。ePCTを通じた電子通知では、システムが当該通知をユーザのアカウントに掲示した時点で送達と見なされる扱いになるのが一般的であり、紙の郵便と比較して送達タイミングが正確に追跡できる反面、各事務所の通知受領フローや期限管理システムにePCT eNotificationsを統合する必要がある。

大手特許事務所や大企業の知財部門では、ePCTのAPIや一括ダウンロード機能を活用して、自社の事件管理システムと自動連携を図る動きが加速している。一方、紙ベースの郵便処理を前提にしてきた中小事務所や個人代理人にとっては、ワークフローの再構築が必要となる。

EPOの「ペーパーレス審査」全体構想

今回のePCT切り替えは、EPOが2020年代を通じて進めてきたペーパーレス化計画の一部である。EPOは欧州特許出願(EP)についてもMyEPOポータルを通じた電子通知への移行を進めており、2024年以降は一定の手続でMyEPOアカウントを介した電子送達を既定値としてきた。今回のPCT手続でのePCT切り替えは、EP・PCT両ルートでの電子コミュニケーション基盤を統合する流れの一環といえる。

EPOは、紙の郵送コスト削減、審査期間短縮、通知到達の迅速化、出願人による情報アクセス改善といった効果を見込んでおり、長期的には「審査官と出願人の双方向のやりとりがすべてオンラインで完結する」フローを目標としている。

他国・他機関の電子送達との比較

主要特許庁における電子通知の標準化は近年急速に進んでいる。米国USPTOは、ePCT経由でのPCT国際出願の電子通知を2024年から段階的に導入しており、PCT-USルート利用者は既にePCTを介した通知受領に慣れている。WIPO国際事務局も、紙の通知から電子通知への切り替えを各受理官庁・国際機関に促す活動を続けてきた。今回のEPOによる全面切り替えは、グローバルなPCT実務における電子化の到達点の一つとなる。

一方、日本特許庁(JPO)は国内出願については独自のJPlatPat・i-Pass等のシステムを軸に運用しているが、PCTにおける受理官庁としての通知体系は段階的にePCT統合に向かう動きを見せている。EPOの2026年6月切り替えがePCT利用率の底上げにつながれば、JPO・KIPO・CNIPAなどアジア主要庁における同様の電子通知統合の議論にも影響を与える可能性がある。

日本企業への含意

日本企業にとっても、欧州を経由するPCT出願(EPOを国際機関や指定官庁として選択する案件)の運用は今回の変更の影響を直接受ける。日本国内の特許事務所が現地代理人を介さずEPOと直接通信する手続部分が増えるため、ePCT eOwnership設定や通知受領アドレスの管理、応答期限の社内システムへの自動取り込みなど、6月1日までに準備すべき項目は多い。

特に、日本企業がPCT出願段階でEPOを国際調査機関として選択することは多く、サーチレポートや書面意見の電子受領が標準化されれば、欧州への国内移行(EP段階)に向けた戦略判断のスピードも向上する可能性がある。EPOは2025年に過去最高の20万件超のPCT国内移行を受理しており、ePCT経由の電子通知への完全移行は、ユーザ側にも一定の投資と運用調整を求めるが、長期的には欧州PCT実務の効率化に寄与すると見込まれる。

6月1日に向けたチェックリスト

出願人・代理人が6月1日までに確認すべき主な項目は、(1)対象となるPCT出願全件にePCT eOwnershipが設定されているか、(2)eNotifications機能が有効化され通知配信先メールアドレスが最新の担当者に紐づいているか、(3)期限管理システムでePCT通知が応答期限の起算日として自動取り込みされる仕組みが整っているか、(4)個別のクライアントごとに通知受領フローを再設計する必要があるか、の4点である。EPOおよびWIPOは、移行に関するFAQやユーザガイドを順次公開しており、各事務所は早めに自社運用と照合することが望ましい。

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パテント探偵社 編集部

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