USPTO、IPR申立人の矛盾するクレーム解釈に厳格姿勢――Ford・Terumo BCT・TikTokのPTAB決定3件を「インフォーマティブ」指定

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米国特許商標庁(USPTO)は2026年5月13日、特許審判部(PTAB)の3件の決定をインフォーマティブ(参考的)と指定した。Ford Motor v. AutoConnect Holdings、Terumo BCT v. Haemonetics Corp.、TikTok v. Shopseeの3件で、いずれも当事者系レビュー(IPR)の申立人が地裁訴訟とPTABで矛盾するクレーム解釈を主張した場合の取扱いを扱う。USPTOはこの指定を通じて、申立人に対し両手続でのクレーム解釈の一貫性を厳格に求める方針を改めて示した。

PTABの決定は「先例的(Precedential)」「インフォーマティブ(Informative)」「通常(Routine)」の三段階に分類される。インフォーマティブ指定は、すべてのPTABパネルに対して拘束力を持つ先例的指定までは至らないものの、他のパネルが争点判断時に参考にすべき指針として明示的に位置付けられる。スクワイア長官体制下のUSPTOは、討議的決定の指定を通じてPTAB実務の方向付けを精力的に行っており、今回の3件指定もその流れに連なる。

これら3件は、PTAB先例として既に確立しているRevvo Technologies v. Cerebrum Sensor TechnologiesおよびTesla v. Intellectual Ventures IIの原則を適用したものである。両先例は、IPR申立人が並行する地裁訴訟で主張するクレーム解釈とPTABで主張するクレーム解釈との間に矛盾があってはならないという基本ルールを確立しており、今回の指定はこの原則を、IPR申立人が地裁での不明確性主張とPTABでのクレーム解釈主張とを使い分けようとする局面に適用する内容となる。

3件のうちFord Motor Co. v. AutoConnect Holdings, LLC(IPR2025-01342, Paper 27, Director May 12, 2026)の事案では、Ford側はPTABでのIPR制度開始決定が下りた後、地裁訴訟において対象クレームの不明確性を主張した。これは、PTABでのIPR申立てがクレームの十分な明確性を前提として進められたこととの矛盾を含むものであった。Ford側は特許権者がPTABに矛盾を指摘した後になって地裁での不明確性主張を取り下げる旨を表明したが、長官はこの段階での取下げを「十分な正当化を欠く(without sufficient justification)」と評価し、制度開始決定を取り消した。

Terumo BCT, Inc. v. Haemonetics Corporationは、血液成分採取装置の特許を巡るIPRである。本件でも、申立人であるTerumo BCT側のクレーム解釈の取扱いに関し、地裁訴訟で示した立場との整合性が論点となり、USPTOは整合性原則の厳格適用が必要と判断した。

TikTok v. Shopseeの事案は、電子商取引・ソーシャルメディアプラットフォーム関連の特許に関するIPRであり、申立人と特許権者の双方が並行訴訟で異なるクレーム解釈に立つ場合の処理がインフォーマティブ判断の対象となった。これら3件はそれぞれ技術分野が異なるものの、共通して「PTAB申立人は地裁訴訟と整合的なクレーム解釈を取らねばならない」というメッセージを発出する役割を果たす。

実務的な含意は明確である。IPRを検討する被疑侵害者は、PTAB申立て前に地裁訴訟における自社のクレーム解釈・無効主張の構成と、PTABで主張する内容との間に矛盾がないかを慎重に点検する必要がある。特に、地裁では不明確性を主張しつつPTABでは明確なクレーム解釈に基づく無効主張を行うという二重戦術は、長官による職権却下のリスクを大きく高める結果となる。

本指定は、USPTOがPTABの裁量却下権限を活用してIPR制度の濫用的利用を抑制する方針を継続していることを示すものでもある。スクワイア長官は就任以来、Magnolia Medical事件等の先例的決定を通じてIPR制度の戦術的利用に歯止めをかける姿勢を明確にしており、今回のインフォーマティブ指定はこの流れの延長線上に位置付けられる。日本企業も米国での特許訴訟・PTAB手続を活用する場面で、地裁とPTABの間の主張一貫性を従来以上に重視する必要が生じている。

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パテント探偵社 編集部

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