米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は2026年5月11日、Bissell, Inc. v. International Trade Commission事件(控訴番号24-1509)において、Tineco社が設計変更したウェット・ドライ床面清掃装置がBissellの特許を侵害しないとした国際貿易委員会(ITC)の最終決定を支持する先例的判決を下した。これにより、ITCが当該設計変更品に対して輸入排除命令を発しなかったことが追認された。一方、CAFCはITCがBissell側の国内産業要件(technical prong)を満たすと認定した点についても支持し、Tineco社の反対控訴を退けた。
事件の対象となったのは、Bissellが保有する米国特許第11,076,735号および第11,071,428号で、いずれも自己洗浄モードと電池充電に用いる収納トレイを備えたウェット・ドライ表面清掃装置に関する。明細書には、自己洗浄モード中は電池充電回路が無効化されるため電池の充電が行われない旨が記載されている。Bissellは1930年関税法第337条に基づき、Tinecoが当該クレームを実施する装置を米国に輸入・販売していると主張してITCに提訴していた。
ITCは当初、侵害が認定されたTineco製品の一部について輸入禁止措置を講じたが、訴訟提起後にTinecoが設計変更を行った。ITCは設計変更品が特定のクレームを侵害しないと判断し、これらに対しては輸入排除命令を発しなかった。Bissellは設計変更品について非侵害とされた点を控訴し、Tinecoは国内産業要件の認定を争って反対控訴した。
CAFCの判断:文言侵害と均等論
判決を執筆したStoll判事は、まず設計変更品が「自己洗浄モード入力制御の起動により電池充電回路が無効化され、無人自動洗浄サイクル中も無効状態が維持される」というクレーム要件を満たさないとした行政審判官(ALJ)の認定を検討した。Bissellは、ALJが「無効化された電池(disabled battery)」の限定について初判決(Initial Determination)の段階で初めて事実上のクレーム解釈を行ったとし、これがクレーム解釈の暗黙の誤りに依拠した判断であると主張した。
CAFCはこの主張を退けた。Stoll判事は、ALJはクレーム文言の通常の意味を適用したにすぎず、Bissell側の専門家証言を説得力に乏しいとした信用性判断を行ったにすぎないと指摘した。タイミングダイアグラムは設計変更品が120秒間の自己洗浄サイクル中に2回充電を実施していることを示しており、文言上の非侵害認定を維持するに足る証拠であるとされた。
均等論については、BissellはALJがクレーム消尽(claim vitiation)の法理に依拠したと反論した。CAFCはこの点も否定し、ALJの判断は「クレームが要求するのと正反対に動作する電池回路がクレームとの間で実質的に異ならないとする証言を説得力に欠けると判断した事実認定」であると説明した。CAFCは均等論に基づく非侵害認定も維持した。
国内産業要件をめぐる反対控訴
Tinecoの反対控訴は、Bissell製品が「無効化された電池」の限定を満たすとの認定の証拠評価を争うものだった。Tinecoは、Bissellの専門家が証言の基礎としたソースコードが証拠として正式に提出されていなかった点を問題視した。
CAFCはこの主張も認めなかった。連邦証拠規則703条は、専門家が事件で認識した事実またはデータに基づいて意見を述べることを認めている。ソースコードがディスカバリーで開示されたこと、専門家が当該ソースコードを実際にレビューしたこと、この分野の専門家が国内産業製品の動作を理解するためにソースコードに依拠することは合理的であること、Tinecoがこれに反対する専門家意見を提示しなかったことを総合すれば、ITCの認定を支える実質的証拠が存在するとCAFCは判示した。
さらにTinecoは、被疑製品が「回収経路内にブラシロールが存在する」というクレーム限定を満たすとの認定にも争いを挑んだ。CAFCは、回収経路を狭く解釈した場合でも、ブラシロールの少なくとも50%が回収経路内にあれば限定が満たされるという点ではTinecoの専門家自身も認めており、提出された証拠と専門家証言から合理的な事実認定者が同様の結論に至り得ると判断した。吸引ノズルの限定についても、Tinecoの専門家が金属ブレードや床面からの吸引を認めている事実をふまえ、ブラシロールからの吸引も可能であるとの認定を支持した。
設計変更(design-around)戦略への含意
本判決は、ITCにおける337条手続で輸入排除命令の対象となった被告が、本判決の対象となった被告のように設計変更を実施し、特定クレームの限定を回避することで非侵害認定を獲得しうることを改めて確認した先例である。とりわけ均等論の適用について、CAFCはALJの事実認定をクレーム消尽の法理問題に格上げするBissellの試みを退け、「クレームの要求と反対の動作」を実質的に同等とみなすには証拠が不十分であるとした。これは、設計変更の有効性を否定しようとする特許権者が、専門家証言の質において一段高いハードルに直面することを示唆する。
Bissellは米国家庭用クリーナー市場の主要プレイヤーであり、Tinecoは中国に本拠を置く新興メーカーとして輸入販売を続けている。今回の判決は、Tinecoが米国市場での販売継続に向けた重要な法的勝利を得たことを意味する一方、Bissellにとっては国内産業要件の認定が維持されたことから、今後の337条訴訟戦略の継続的根拠を確保した形となった。
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パテント探偵社 編集部
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