米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は2026年4月2日、建材メーカーFortress Iron LPが保有する2件のバーチカルケーブルフェンス特許について、共同発明者への通知手続きを完了できなかったことを理由に無効と判断した。発明者訂正を定めた35 U.S.C. § 256(b)の解釈について先例的意見を示した初の連邦裁判所判断であり、特許訴訟における発明者表示管理の重要性を改めて浮き彫りにしている。
本件はFortress Iron LPと競合メーカーDigger Specialties Inc.の間の特許侵害訴訟を発端とする。Fortress Ironは、バーチカルケーブルレールバリア(垂直ケーブルを用いた柵状構造物)に関するU.S. Patent 9,790,707および同10,883,290を保有しており、これらの特許に基づいてDigger Specialtiesを提訴した。訴訟が進む中で、両特許に記載された発明者リストに誤りがあることが明らかになった。Fortress Ironの品質管理委託先であるQuan Zhou Yoddex Building Material Co., Ltd.(以下「Yoddex」)の従業員2名——Hua-Ping HuangとAlfonso Lin——が、バーチカルケーブルフェンスの最終設計に実質的な貢献をしていたと訴訟を通じて認定されたためである。Yoddexは中国の建材企業であり、Fortress Ironの製品の生産管理にあたっていた。
Fortress IronはLinについては35 U.S.C. § 256(a)の訂正手続きにより追加発明者として登録することに成功したが、Huangの所在は不明のままで連絡がつかなかった。Fortress IronはHuangを発明者として追加する申請を継続したが、地方裁判所はHuangへの法定通知が行われていないとして申請を却下した。裁判所はDiggerの略式判決申立てを認容し、両特許を無効と判断した。
CAFCはLourie判事が執筆した先例的意見(precedential opinion)で地方裁判所の判断を支持した。35 U.S.C. § 256(b)は、特許における発明者表示の誤りを事後的に訂正するための救済規定(savings provision)であり、訂正に際して「当事者(party concerned)」への適切な通知と聴問機会の付与を要件としている。CAFCはHuangが同条にいう「当事者」に該当すると認定したうえで、Fortress IronがHuangの所在を把握できないという事情は、§ 256(b)が定める手続的保護を免除する根拠にはならないと明示した。
CAFCは次のように述べている。「§ 256はあくまでその法定要件が充足された場合に機能する救済規定である。当事者が誤りを矯正しようとする意志を持つとしても、それは同条が課す手続的要件を免除する根拠とはならない。」
本件における法的論点の核心は、発明者訂正手続きの実効性が「当事者の連絡可能性」に依存するという点にある。CAFCの判断によれば、複数の発明者が存在する場合にはすべての発明者が適切に特定・記載されなければならない。訂正手続きを完結させることができない場合、その漏れが生じた特許は「訂正不能」として有効性を失う。本判決はCAFCとして初めて§ 256(b)の「当事者」要件を解釈したもので、所在不明の発明者への通知を省略した形での訂正申請が認められないことを先例として確立した。
本判決は特許の出願・管理実務に重大な示唆を持つ。まず、企業が外部サプライヤーや受託開発先と共同で製品開発を進める場合、その過程で外部の担当者が発明に実質的に貢献することは珍しくない。Yoddexの従業員が最終設計に貢献していた本件はその典型例である。特許出願の時点で、開発に関与したすべての外部協力者について発明貢献の有無を精査するプロセスを導入することが一層重要になる。
次に、本判決は訴訟上の防御戦術として発明者無効主張(inventorship invalidity)がより精緻な法的根拠を持つことを確認するものでもある。被疑侵害者側は、特許権者の外部取引先との関係を調査し、未記載の共同発明者が存在しないかを検討することで、強力な無効主張の根拠を得られる可能性がある。特に外国サプライヤーが製品開発に深く関与しているケースでは、発明者の所在確認が困難になる可能性が高く、その点が訴訟リスクとして現実化しやすい。
さらに、外部協力者の連絡先情報——とくに外国に所在するパートナー企業の担当者——を発明の関連書類とともに長期的に保管しておくことが実務上の前提条件となる。連絡先情報の管理は、将来の訂正手続きを可能にするために不可欠であるが、本件のように企業間関係が変化した場合にはそれが困難になりうる。特許ポートフォリオの健全性を維持するためには、出願時の発明者調査を徹底することが最善の対策である。
本件の判決が示す教訓は端的である。共同発明者への通知義務は書類上の形式要件ではない。その義務を果たすことができなければ、特許そのものが無効となる。外部パートナーとの共同開発が標準となった現代の知財実務において、本判決はライセンサー・特許権者双方にとって重要な行動指針を提供している。
【参照情報】
特許番号:U.S. Patent 9,790,707、U.S. Patent 10,883,290(「Vertical Cable Rail Barrier」)
事件名:Fortress Iron LP v. Digger Specialties Inc.
適用条文:35 U.S.C. § 256(b)
判決日:2026年4月2日(連邦巡回控訴裁判所、先例的意見)
担当裁判官:Judge Lourie

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