特定の色を商標として登録し、競合他社の使用を排除することは可能か——この問いに対して米国連邦最高裁が肯定的な回答を与えたのは1995年のことである。それ以来、ティファニーブルー、UPSブラウン、クリスチャン・ルブタンの赤いソール、そしてル・クルーゼのオレンジといった色彩商標が法的保護の対象となってきた。色彩が商品の出所を識別する標識として機能し得るという原則は確立されたが、実際に色彩商標を取得・維持することのハードルは高く、その適用範囲と限界をめぐる訴訟は現在も続いている。
Qualitex事件——色彩商標を認めた最高裁判決
米国における色彩商標の法的根拠は、Qualitex Co. v. Jacobson Products Co., 514 U.S. 159 (1995)に端を発する。クリーニング用パッドの製造業者Qualitex社は、金緑色(gold-green)のパッドを1950年代から販売しており、その色彩について使用による識別力(二次的意義)を獲得していた。競合のJacobson Products社が同様の色彩のパッドを発売したため、Qualitexは商標侵害訴訟を提起した。
連邦最高裁判所は全員一致で、単独の色彩も商標として登録可能であると判示した。ギンズバーグ判事の法廷意見は、Lanham Actの「文字、語、名称、記号、装置(word, name, symbol, or device)」という文言が色彩を包含すると解釈し、色彩が識別力を有し、かつ機能的でない(non-functional)限り、商標保護の対象となり得ると結論づけた。
ただし同判決は、色彩商標の成立に「二次的意義(secondary meaning)の獲得」を必要とすることも確認した。色彩は原則として本質的識別力(inherent distinctiveness)を持たず、継続的・排他的使用を通じて需要者の間で特定の出所を識別する標識として機能するようになって初めて商標としての保護が認められる。また「機能性の原則(functionality doctrine)」——製品の機能に不可欠な特徴は商標として保護されない——により、純粋に装飾的または技術的役割を担う色彩は保護対象から外れる。
ル・クルーゼのオレンジ——「フレイム」カラーの商標管理
フランス発祥の鋳鉄製調理器具ブランド、ル・クルーゼ(Le Creuset)は、1925年の創業時から「フレイム(Flame)」と呼ばれるオレンジ色を象徴的なカラーとして使用してきた。このオレンジは「溶けた鉄が注ぎ込まれる瞬間の輝き」をイメージして選ばれたとされており、100年近い使用実績がある。
米国においてル・クルーゼはフレイムカラーを商標として登録し、鍋・フライパン等の調理器具を指定商品として権利を維持している。登録番号2164832等の米国商標登録においては、色彩の詳細(深い橙から明るい橙への変化を伴う「フレイム効果」のオレンジ)が記述されている。欧州においてもEUIPOへの出願・登録がなされており、主要市場で一貫したブランドカラー保護の態勢が整備されている。
ル・クルーゼのケースが示すのは、100年近い継続使用と市場での圧倒的な認知度が、色彩商標成立の基盤として機能するという点である。調理器具の分野でオレンジというカラー自体が機能性を持つわけではなく(オレンジ色でなければ調理器具として機能しないということはない)、非機能性の要件も満たされている。
他ブランドの色彩商標——ティファニー・UPS・コカ・コーラ
色彩商標の事例として最も広く知られるのはティファニーブルー(Tiffany Blue)である。ニューヨークの宝飾ブランド、Tiffany & Co.は、1837年の創業以来一貫して使用してきたロビンエッグブルー(通称「ティファニーブルー」、PMS 1837と同定)を米国商標として登録しており、その色彩を宝飾品・ギフト箱・ラッピングに独占的に使用する権利を主張する。PMS番号「1837」は同社の創業年から命名されたものである。
UPS(United Parcel Service)は宅配・物流サービスに使用される特定のブラウン(PMS 469)を米国商標として登録し、「What can Brown do for you?」というスローガンとともにブランドアイデンティティの核に位置づけている。このブラウンは配送車両・制服・パッケージに一貫して使用されており、米国における二次的意義の獲得は争いのない事実として認識されている。
コカ・コーラの赤(コカ・コーラレッド)も商標登録されており、同社の缶・ボトル・自動販売機に使用される。競合のペプシコーラが青(ペプシブルー)を一貫使用することで、ソフトドリンク市場における赤と青の色彩的二分法が業界標準として定着している。
ルブタン対YSL——赤いソール訴訟が示した色彩商標の限界
色彩商標の保護範囲をめぐる最も注目された訴訟は、Christian Louboutin S.A. v. Yves Saint Laurent America, Inc., 696 F.3d 206 (2d Cir. 2012)である。クリスチャン・ルブタンは1992年から女性用ハイヒールのアウトソールを赤(特定のラッカーレッド)で塗装し、この赤いソールを識別標識として使用してきた。2008年に米国商標登録(登録番号3361597)を取得し、靴底のみに適用される赤という一側面からの色彩商標という異例の権利を確立した。
2011年、ルイ・ヴィトン傘下のYSL(イヴ・サンローラン)がソールを含む全体が赤いポンプスを発売したことに対し、ルブタンはYSLを商標侵害で提訴した。YSL側は、赤いソールは機能的(红色は美的・装飾的機能を持つ)または識別力を欠くとして反論した。
第2巡回区控訴裁判所は2012年9月の判決で、ルブタンの赤いソール商標は原則として有効であると認めた。しかし、靴全体(アッパーを含む全体)が赤である場合——すなわちソールとアッパーが同色である場合——については、ルブタンの商標権は及ばないと判断した。この「対比的使用(contrasting color context)」の法理は、同一色彩を全体に使用するデザインに対して色彩商標の主張が過度に広がることを制限するものとして、後続の色彩商標訴訟に広く参照されている。
ルブタン対YSL事件は、色彩商標の保護が認められる場合でも、その範囲は市場での識別的使用の実態に応じて限定されること、また競合他社が同一色彩を異なる文脈で使用する余地があり得ることを示した。
日本の色彩商標制度——2015年施行と登録事例
日本では2014年の商標法改正(2015年4月1日施行)により、色彩のみからなる商標が保護の対象に加わった。改正前の商標法は標識が何らかの形態(文字・図形・立体等)を有することを前提としており、単色や配色のみからなる商標は登録できなかった。
改正後、出願には識別力の立証(長期継続使用による二次的意義の獲得)が原則として求められる。特許庁の審査基準によれば、出願人は継続使用期間・使用地域・使用実績・需要者認識度調査等を提出して識別力を証明する必要がある。
日本で最初に登録された色彩のみからなる商標には、セブン-イレブン・ジャパンが保有するオレンジ・緑・赤のストライプ配色(商標登録第5988226号等)が含まれる。トンボ鉛筆は消しゴム「MONO」の青・白・黒の横縞配色を商標として登録している。これらは商品や包装に長年一貫して使用することで消費者の識別力を獲得した事例である。
欧米と比較すると、日本の色彩商標の登録件数はまだ少なく、登録基準の運用においても審査官の判断にばらつきがある。色彩商標の出願から登録に至るまでの期間と要件の重さは、日本企業にとってなお高いハードルとして機能している。
色彩商標を取ることのビジネス的・法的コスト
色彩商標は取得できれば強力な競争優位をもたらすが、その取得・維持にはコストが伴う。第一に、二次的意義の立証に必要な長期継続使用には年単位の投資が前提となる。第二に、商標出願・審査対応・異議申立対応には専門家費用が生じる。第三に、登録後も模倣的使用を継続的に監視し、必要に応じて法的措置を講じ続けなければ、権利が形骸化しかねない。
また、色彩商標の取得は競合他社の事業活動を制限するため、業界関係者からの反発や異議申立を受けやすい。ルブタンの赤いソール商標は取得時から業界内で議論を呼び、YSLとの訴訟に至ったのはその典型例である。
それでも、色彩商標が与える市場上の排他的価値——競合他社が同一の色彩を同一カテゴリで使用できなくなること——は、正当に取得された権利の枠内では非常に強力である。ル・クルーゼが100年近く維持してきたオレンジのブランドアイデンティティは、商標による法的保護と一体となってブランド価値の不可分な構成要素となっており、これが色彩商標という制度の最もわかりやすい成功例のひとつとなっている。


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