USPTOとDOJがSEP訴訟に共同声明を提出へ——SEPワーキンググループ共同議長が新たな政策方針を表明

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米国特許商標庁(USPTO)と米国司法省(DOJ)が、標準必須特許(SEP)をめぐる訴訟に共同で政府声明(statement of interest)を提出する新たな政策方針を採用することが明らかになった。IAM Mediaが報じたインタビューにおいて、USPTOのSEPワーキンググループ共同議長を務めるニコラス・マティック弁護士が、この政策の方向性と背景を詳細に説明した。

マティック弁護士は、今後USPTOとDOJは「共同の独禁法・特許庁声明」を適切なSEP関連訴訟に提出し、政府として統一した立場を法廷で示す方針であると述べた。これまでもDOJが競争政策の観点からSEP訴訟に声明を提出する事例はあったが、USPTOが共同で関与するという枠組みは新しい取り組みである。同弁護士はさらに、関係者が「注目に値する案件」と判断するSEP訴訟を政府の注意に引くよう訴訟当事者を歓迎するとも述べており、政府関与の積極化を示唆している。

SEPワーキンググループの設立と役割

USPTOは近年、SEPをめぐる政策立案において主要な役割を担ってきた。同庁が設立したSEPワーキンググループは、特許権者・実施者・標準化団体・消費者団体など多様なステークホルダーの意見を集約し、適切なSEPライセンス慣行に関する指針の策定を進めてきた。

SEPとは、特定の技術標準(5G・Wi-Fi・Bluetooth等)を実装するために技術的に不可欠な特許であり、標準化に参加した企業が保有する。こうした特許の保有者は、標準化団体のポリシーに従い、実施希望者に対して公正・合理的・非差別的(FRAND)な条件でライセンスを供与する義務を負うとされる。しかし実際のライセンス交渉では、「FRAND条件」の解釈をめぐる対立が頻繁に訴訟へと発展してきた。

DOJとの連携強化の意義

今回明らかになった「USPTO・DOJ共同声明」の枠組みは、米政府がSEP問題を知的財産政策と競争政策の交差点として、より統合的に扱う意思を示したものと解釈できる。

DOJは2026年4月初頭のCSIS LeadershIPカンファレンスでも、FRAND義務を「独禁法上の安全弁」と位置づける立場を改めて表明したばかりである(同省カレー反トラスト担当副長官補)。今回のUSPTO側の発言はこれと方向性を一致させるものであり、米政府全体として、SEP保有者によるFRAND義務違反に対して法的に積極的に対応する姿勢を示している。

SEPの保有者が特定のFRAND条件を拒絶する実施者に対して差止請求を乱用する行為は、競争法上の問題を生じさせる可能性があるとの見方は、欧州競争当局でも示されてきた。米政府がこの観点を政策的に強化することは、特に5G・6G関連のグローバルなSEPライセンス交渉の実務に影響を与えうる。

6G時代を見据えたSEP政策の重要性

2026年4月にベルリンで開催されたIPBC Europe 2026では、エリクソン(Ericsson)、インターデジタル(InterDigital)、ノキア(Nokia)、クアルコム(Qualcomm)の各社がパネルセッションに登壇し、6Gの普及がSEPのライセンス価値創出に与える影響について論じた。各社は、6Gが単なる通信インフラにとどまらず、産業用IoT・自動運転・スマートシティ等の垂直市場に広く浸透することで、SEPの権利行使対象が従来のスマートフォン・タブレット市場を大きく超えて拡大すると指摘した。

こうした背景のもとで米政府がSEP訴訟への積極的関与方針を打ち出すことは、特許保有者・実施者の双方にとって法的環境を大きく変化させる要因となりうる。とりわけ日本企業は、5G関連SEPを保有する特許権者として、またスマートフォン・自動車・産業機器の製造者として、SEP訴訟の米国での展開に直接的な利害関係を持つ立場にある。

今後の注目点

USPTO・DOJの共同声明が実際にどの訴訟に提出されるか、また声明においてどのようなFRAND基準の解釈が示されるかが、今後の重要な観察点となる。また、6G標準化の進展に伴い、SEPポートフォリオを形成しつつある企業が政府のシグナルをどう受け止め、ライセンス戦略を調整するかも注目される。

本稿はIAM Mediaの報道に基づく。USPTOのSEPポリシーに関する最新情報はUSPTO公式サイトで参照できる。

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パテント探偵社 編集部

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