米国特許商標庁(USPTO)は2026年4月6日、未処理の特許出願件数(審査積滞件数)が776,995件となり、2年間で最低の水準に達したと発表した。2025年1月に記録したピーク値837,928件から約61,000件の削減を実現したもので、同庁はこの傾向が今後2四半期にわたって継続すると見込んでいる。
USPTOのジョン・スクワイアーズ長官は同日の声明で、この数字が「出願人に有利な方向へのモメンタムの転換点(ティッピングポイント)」を示すと評した。スクワイアーズ長官は2025年10月の米国知的財産法協会(AIPLA)年次大会においても、現政権が「絶対的に機能不全に陥った審査積滞件数」を引き継いだと述べており、今回の発表はその改善を具体的な数値で示した初めての節目となった。
審査積滞の推移と構造的背景
特許審査の積滞件数は2020年時点で576,103件であったが、その後の出願件数の急増とCOVID-19パンデミックによる審査体制への打撃が重なり、継続的な増加を記録してきた。前長官のカシ・ヴィダール氏も就任時にパンデミック起因のバックログを引き継いだと述べており、審査積滞は単一の政権に帰せられる問題ではなく、複数政権にまたがる構造的な課題となっていた。
スクワイアーズ長官はこの状況を「発明者への完全な裏切り」と表現している。USPTO局長として2025年初頭に着任したスクワイアーズ氏は、審査効率の改善を政権の優先課題の一つに位置づけており、今回の発表はその成果を示すものだ。
改善を支えた施策
今回の審査積滞削減が注目されるのは、新規出願の受付件数を維持しながら達成されている点にある。スクワイアーズ長官は、同庁が取り組んできた複数の施策が奏功したと説明した。具体的には、新たな特許審査ガイダンスの整備、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)のデジャルダン(Desjardins)判例に基づく審査実務の見直し、そして適格性開示提出(Eligibility Disclosure Submission)プログラムの導入が挙げられている。
これらの施策は、特許適格性(特許法101条要件)に関する審査判断の一貫性と効率性を高めることを主眼としている。101条要件をめぐる審査は、ソフトウェアやビジネス方法の出願において特に不確実性が高く、審査官と出願人の双方にとって大きな負担となってきた。ガイダンスの明確化により、こうした案件の処理速度が向上したものと考えられる。
実務への影響
特許審査の積滞は、発明者が権利取得を待つ期間の長期化を意味する。技術サイクルが短いAI・半導体・バイオ分野では、権利取得の遅延が競争上の不利を生じさせる可能性がある。また、スタートアップ企業や個人発明家にとって、未審査の出願が長期間にわたってペンディング状態に置かれることは、資金調達やライセンス交渉においても障壁となる。
一方で、審査スピードの向上が審査の質とトレードオフになる可能性を懸念する声もある。審査の迅速化によって先行技術の見落としが増えれば、権利化後の無効審判(IPR)や訴訟における特許の有効性争いが増える可能性がある。USPTOは質と効率の両立を強調しており、今後の無効率や訴訟結果が施策の実効性を評価する間接的な指標となりそうだ。
今後の注目点
USPTOは2026年度後半にかけて積滞件数がさらに低下すると予測している。スクワイアーズ長官が導入した各施策の定着度合いと、新規出願トレンドとの兼ね合いが今後の焦点となる。AI・生成AI分野での出願件数は世界的に増加傾向にあり、こうした新領域の出願が積滞に与える影響も引き続き注視が必要だ。
今回のUSPTO発表はIPWatchdog(2026年4月10日)を含む複数の知財専門メディアが報じており、特許実務家のあいだで関心を集めている。
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パテント探偵社 編集部
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