米国特許商標庁(USPTO)は2026年3月30日、製薬・バイオテクノロジー分野の特許制度のあり方と特許審判・不服審判部(PTAB)の役割について意見を聴取する「ライフサイエンス・リスニングセッション」の第1回を開催した。特許保有者側と後発医薬品業界側の双方から代表者が参加し、特許の有効性をめぐる根本的な立場の違いが改めて浮き彫りになった。本セッションは計3回シリーズの最初の回であり、USPTOがPTAB運営の方向性を見直す可能性を示す動きとして、知財実務家の間で注目されている。
PTABは2012年のAIA(America Invents Act)成立とともに設置された行政審判機関であり、付与後再審査(Post-Grant Review、PGR)や当事者系審査請求(Inter Partes Review、IPR)を通じて特許の有効性を審査する。設置以来、特許無効の手続きを連邦地裁訴訟と並行して行える「複数の戦場」として機能し、製薬企業の特許への影響が特に大きいとして議論の対象となってきた。
製薬会社側を代表して発言したのは、ブリストル・マイヤーズ スクイブ社(BMS)の最高知財顧問Henry Hadad氏と、米上院司法委員会の知財政策ディレクターPeter-Anthony Pappas氏である。Hadad氏は、2023〜2024年のデータではIPRが開始(instituted)された案件の約70%で特許が無効と判断されており、この高い無効化率が研究開発集約型産業における特許の予見可能性を著しく損なっていると主張した。さらに、特許の有効性を守る側は特許庁・連邦地裁・PTAB・連邦巡回控訴裁のすべての場で勝ち続けなければならないのに対し、無効を主張する側はいずれか一つの審判機関で一つの争点に勝訴するだけで足りるという「構造的非対称性(structural asymmetry)」を指摘した。Pappas氏は、「特許権の変更や制限に関する政策提案は、実証的必要性と信頼性の高いデータに基づくべきであり、誤った前提に基づくものであってはならない」と述べた。
両氏はまた、製薬特許が「医薬品価格の高止まりを招く特許の藪(patent thicket)を形成している」という主張の根拠として頻繁に引用されてきたNPO「I-MAK」のデータについて、2024年6月にUSPTO・FDA両機関が共同で公表した報告書がこれを否定していることを強調した。特許の藪として数えられてきた特許の中には、出願が取り下げられたもの、あるいはすでにジェネリック化している医薬品に関するものが含まれており、統計自体の信頼性に問題があるとの指摘である。
後発医薬品業界を代表して登壇したのは、Association for Accessible Medicines(AAM)のRobert Cerwinski会長である。Cerwinski氏はIPRおよびPGR制度がジェネリック医薬品・バイオシミラーの市場参入を支援していると反論し、一部の医薬品では40件を超える特許が登録されているとして、複数の特許が医薬品の競合参入を実質的に阻害しているとの見方を示した。
製薬特許保有者側が特に要求しているのは、「PREVAIL Act(Promoting and Respecting Economically Vital American Innovation Leadership Act)」の立法化である。PREVAIL Actは、PTABにおける重複・逐次的な特許無効申請への制限、特許権者の手続的権利の強化、審判官(APJ)の構成に関する見直しなどを内容とする法案であり、製薬業界の特許実務者のみならず、ハイテク・半導体分野の特許権者からも支持を集めている。同法案の審議の行方が、今後のUSPTOおよびPTABの運営方針に直接影響する可能性がある。
本リスニングセッションの内容は、現在進行中のPTAB改革論議に対する重要なインプットを提供するものである。USPTOが採用する政策の方向性は、製薬企業の特許戦略、IPR・PGRの活用方針、Hatch-Waxman法上の特許係争スケジュールなどに直接影響を及ぼす。
今後の日程として、第2回セッション(テーマ:ハイテク産業とPTAB)が2026年4月に、第3回(テーマ:PTAB運営・制度改革全般)が2026年5月に予定されている。各セッションでの議論は、USPTOが今後策定する規則やガイダンスの方針に反映される見込みである。特許実務家、製薬企業の知財部門、後発医薬品メーカーにとって、これらのセッションの動向を注視することが実務上求められる。
【関連情報】
第1回セッション日時:2026年3月30日
主要登壇者:Henry Hadad(ブリストル・マイヤーズ スクイブ社)、Peter-Anthony Pappas(米上院司法委員会)、Robert Cerwinski(Association for Accessible Medicines)
適用制度:35 U.S.C. § 311以降(IPR手続き)、Hatch-Waxman法
次回セッション予定:2026年4月(ハイテク産業とPTAB)、2026年5月(PTAB運営・改革)

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