2026年4月5日、米国特許商標庁(USPTO)は、Ex Parteの特許再審査(Reexamination)手続きにおける新たなプレオーダー手続きを施行する。この改革により、第三者が再審査請求を提出した際に、特許権者が「特許性の実質的な新たな問題(Substantial New Question of Patentability: SNQ)」の有無についてUSPTOが決定する前に意見書を提出できるようになる。特許制度の実務に携わるすべての関係者が注目する重要な手続き改革だ。
Ex Parte再審査とSNQ判断:制度の基礎
まず制度の基礎から確認しておこう。Ex Parte再審査(35 U.S.C. § 302)は、特許権者または第三者(競合企業、研究機関、個人など)がUSPTOに対し、既に登録された特許の有効性を再検討するよう求める手続きだ。第三者が申請する場合、USPTOはまず「SNQ(特許性に関する実質的な新たな問題)」が存在するかどうかを判断する。SNQが認められれば正式な再審査が開始され、認められなければ申請は却下される。
SNQとは、先行技術や他の事実が示すことによって、特許付与当時には考慮されなかった特許性への疑問が生じる状況を指す。過去に審査官が検討した先行技術を再度持ち出しても、原則としてSNQは認められない。一方、新たな先行技術が見つかった場合や、既存の先行技術について新たな解釈が示された場合にはSNQが認定される可能性がある。
従来制度の問題点:特許権者が蚊帳の外
従来のEx Parte再審査手続きでは、第三者から再審査請求が提出されると、USPTOはその請求書に基づいてのみSNQの有無を判断し、特許権者に通知する仕組みだった。つまり特許権者は、再審査が開始されるかどうかの重要な判断に関与できず、事後的に結果を知らされるだけだった。
この仕組みに対しては、特許権者側の業界団体や弁理士会から長年批判が寄せられていた。「第三者の主張が一方的に審査され、特許権者が反論する機会がない」「SNQ判断が過度に緩く、濫用的な再審査申請が乱発される」という声が代表的だ。特にパテントトロールに悩む特許権者だけでなく、正当な事業活動の中で自社特許を守ろうとする企業にとっても、現行制度は不公平感の強いものだった。
新制度の詳細:30ページ・30日間の先制反論
新たなプレオーダー手続きでは、USPTOが再審査請求を受理すると、まず特許権者に通知を送る。特許権者はその通知から30日以内(カレンダー日)に「プレオーダー文書(Pre-Order Paper)」を提出できる。この文書は最大30ページで、以下の内容を含むことができる。
- 第三者の申請が引用する先行技術が既にUSPTOの審査で考慮済みであるという論拠
- 引用先行技術と対象クレームの技術的差異の説明
- 第三者が示した解釈に対する反論
- 宣言書(Declaration)など証拠書類の添付
USPTOはこのプレオーダー文書を受け取った上でSNQの有無を判断する。すなわち、第三者の申請内容と特許権者の反論の双方を踏まえた上で、再審査を開始するかどうかが決定される仕組みだ。
改革の意義:手続き的公正の確保と濫用防止
この改革がもたらす最も重要な変化は、「手続き的公正(Procedural Fairness)」の向上だ。特許権者が当事者として早期に関与できるようになることで、SNQ判断の精度が上がり、根拠の薄い再審査請求を早期に排除できる可能性が高まる。これは再審査手続きの迅速化にも寄与しうる。
また、この改革は2023年以降続いてきたUSPTOの手続き改革の流れとも整合している。USPTOはSection 101新ガイダンスの整備など、特許権の明確化と手続きの公正化を一貫して推進してきた。プレオーダー手続きの導入はその延長線上にある。
実務への影響:特許権者・挑戦者それぞれの戦略変更
この制度変更は、特許権者と再審査請求者(挑戦者)の双方に戦略の見直しを迫る。
特許権者の視点では、再審査通知を受けた際に迅速に対応できる社内体制の整備が求められる。30日という期間は短く、プレオーダー文書の内容は後の審査にも影響を与えるため、準備に時間をかけられない。特に多数の特許を抱える大企業の知財部門では、再審査モニタリングと初動対応フローの整備が急務だ。
挑戦者(第三者)の視点では、SNQ申請の質を上げることが一層求められる。特許権者が先制的に反論できるようになったため、引用先行技術の選定や解釈の論拠付けが不十分な申請はSNQが認められにくくなる可能性がある。より綿密な特許調査と法的分析が必要になるだろう。
IPR(Inter Partes Review)との比較:どちらを選ぶか
特許の有効性を争う手続きとしては、Ex Parte再審査に加えて、IPR(Inter Partes Review)やPGR(Post-Grant Review)という手続きも存在する。IPRは第三者が当事者として参加できる手続きで、より双方向的な証拠提出・口頭審理が可能だ。一般的に、特許無効化の手段としてはIPRの方が効果的とされてきたため、近年はEx Parte再審査の件数が相対的に減少していた。
今回の改革により、Ex Parte再審査の手続き的公正が向上すれば、特許権者にとっても挑戦者にとっても「使いやすい手続き」として再評価される可能性がある。特に、特許権者が自発的に再審査を請求して特許の有効性を強化したいケースや、訴訟前の交渉において先手を打ちたいケースでは、Ex Parte再審査の活用が増えるかもしれない。
日本企業への影響:米国特許保護戦略の見直しを
日本企業が米国に特許を保有している場合、今回の改革は直接の影響をもたらす。競合他社や第三者から再審査請求が来た際に、早期に専門家と連携して対応できる体制を整えることが重要だ。また、プレオーダー文書の作成には米国特許弁護士との協力が不可欠であり、グローバル知財管理の体制強化が改めて問われる。
USPTOの公式発表および改正規則の詳細はUSPTO公式サイト(uspto.gov)で確認できる。また、Ex Parte再審査の申請件数や審査状況はPTAB(特許審判申請委員会)の統計でも参照可能だ。
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