2026年4月9日、米国特許商標庁(USPTO)の審判覆審パネル(ARP: Appeals Review Panel)が自発的に審査を開始したEx Parte Baurin事件について、複数のアミカス・ブリーフ(法廷意見書)がUSPTOのウェブサイトに公開された。本件は、自明型二重特許(ODP: Obviousness-type Double Patenting)拒絶の根拠となる参照特許の選定基準——特に出願人有利の特許に対してより後に出願・発行された特許を参照特許として用いることの可否——をめぐり、特許実務界が注目する重要な手続きである。
事案の発端は、抗体様結合タンパク質を対象とする米国出願番号17/135,529に対する審査に遡る。審査官は、米国特許第10,882,922号(2017年4月13日出願、2021年1月5日登録)を参照特許としてODP拒絶を行った。これに対し出願人は、当該出願の優先日が2012年3月28日(米国出願番号13/433,033の出願日に対応)であるのに対し、参照として用いられた特許の出願日は2017年4月13日と大幅に後であると反論した。さらに出願人は、本出願から発行される特許の存続期間は末端免責(terminal disclaimer)により2032年3月28日を超えないのに対し、参照特許は20年存続期間の下で2037年4月13日まで存続するとも主張した。
特許審判委員会(PTAB)は2024年11月8日の審決で出願人の主張を認め、審査官のODP拒絶を取り消した。PTABは2024年に連邦巡回控訴裁判所(CAFC)が下したAllergan USA, Inc. v. MSN Laboratories Private Ltd., 111 F.4th 1358(Fed. Cir. 2024)の論理を根拠とした。Allerganは「共通の優先日を持つ特許群において、最初に出願・発行され、かつより遅く満了する請求項は、後に出願・発行され、より早く満了する参照請求項によって無効とすることはできない」と判示した事件であり、ODPの目的が「最初の特許の存続期間を実質的に延長するために発明者が第二の特許を取得することを防ぐ」点にあることを明確にした。
2025年12月18日の再審理決定において、PTABは審査官の再考申立を棄却した。PTABは「本件とAllerganの事実関係には違いがある(参照特許と本出願は優先日を共有せず、同一の出願ファミリーにも属さない)が、その論理は本件に説得的に適用されると考える」と述べ、出願人に有利な判断を維持した。これを受けてUSPTO長官代理Squires氏は2026年3月、ARPを自発的に設置した。ARPはアミカスに対し次の3点への見解を求めている。第一に、Allerganの当てはめ可能性と「最初に出願」(first-filed)の定義、第二に、ODP拒絶時に審査官が予測満了日を計算すべきか否か、第三に、別主体による権利行使リスクおよび自明な変形クレームへの別個権利付与の弊害の有無である。
2026年4月9日に公開されたアミカス・ブリーフの中で最も注目を集めているのが、スタンフォード大学のMark Lemley教授とリサ・ラリモア・ウレット(Lisa Larrimore Oullette)教授が共同提出した意見書である。両教授は「CAFCはこれまで、参照特許が出願中の出願よりも後の優先日・後の特許期間開始日を持つ場合においてもODP拒絶を維持してきた」と指摘し、PTABの分析は誤りだと主張する。Lemley・Oullette両教授によれば、Allerganの射程は同一の優先日・ファミリーを持つ特許関係に限定されており、本件のような関係には及ばないという立場である。一方、アミカスとして参加した多数の当事者はPTABの分析を支持する立場を取っている。
本件がバイオ・医薬品産業に与える実務上の影響は大きい。ODPは特許の追加取得戦略——とりわけ継続出願(continuation application)や分割出願を通じた特許ポートフォリオの構築——において常に念頭に置かれるべき法的制約である。ARPの審査結果次第では、異なる優先日・満了日を持つ継続出願間のODP拒絶の有効性に関する実務指針が大きく変わりうる。特許期間の調整(PTA)や末端免責が組み合わされた複雑な特許ポートフォリオを持つ企業にとって、本件の行方は無視できない。
ARPの審査は継続中であり、最終的な判断がいつ示されるかはまだ明らかでない。しかしLemley・Oullette両教授のブリーフに示されるように、本件ではCAFC先例の解釈をめぐって専門家の間でも見解が分かれており、結論の行方は容易に予測できない。ODP実務に関与するバイオ・医薬品・化学分野の特許実務者は今後のARP審査の動向を注視すべきである。
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パテント探偵社 編集部
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