連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は2026年4月18日、美容用ペニスインプラントをめぐる知財紛争 International Medical Devices, Inc. v. Cornell(事件番号25-1580) において、カリフォルニア中部地区連邦地方裁判所の陪審評決を実質的に破棄する先例的判決を下した。Dyk裁判官が執筆し、Reyna、Taranto各裁判官が加わる合議体による本判決は、2019年以降約7年にわたり争われてきた本件に対し、営業秘密法における「秘密性」と特許法における「発明者適格」の両面で先例的な判断基準を示した。
原告は International Medical Devices, Inc.(IMD)、その関連会社 Menova International, Inc.、および外科医でありPenuma(ペヌーマ)インプラントの発明者 James Elist 医師。被告は Robert Cornell 医師およびその医療法人。Elist 医師は2018年3月、Cornell 医師を外科手術トレーニングセッションに招き、この場で守秘義務契約(NDA)を締結した。トレーニングでは、Penumaインプラントの改良に関連する複数の技術要素が開示された。
原告側の主張は、Cornell 医師らがこの開示情報を用いて競合製品「Augmenta」を開発し、Elist 医師を共同発明者として記載せずに特許出願したというものである。陪審は原告側の主張をほぼ全面的に認め、4件の営業秘密侵害、NDA違反、商標偽造、および発明者未記載を原因とする特許無効を認定した。損害賠償は相当実施料577万ドル、その2倍の懲罰的損害賠償1,154万ドル、商標偽造に対する法定損害賠償100万ドルの合計1,831万ドルにのぼり、5年間の恒久的差止め命令も付された。CAFCはこのうち商標偽造のみを維持し、それ以外の主要認定を破棄した。
本件の核心を占めた第一の争点は、問題の技術情報がカリフォルニア州統一営業秘密法(UTSA)上の「営業秘密」として保護を受けるか否かである。問題となった3つの技術要素は、(1)シリコン体内部にポケットを形成して柔軟性と弾性を高める手法、(2)インプラント先端付近にメッシュタブを配置して組織定着を促す手法、(3)吸収性縫合糸でメッシュタブを縫合して組織統合を促進する手法であった。
CAFCは、これら3要素がいずれも公開された先行特許——1992年発行のSubrini特許および1980年発行のFinney特許——にすでに記述されていたという事実を決定的とした。同裁判所はカリフォルニア州の判例原則を援用し、「公知技術の自明な変形は保護されない(California courts have recognized that self-evident variants of the known art cannot be protected)」という命題を適用した。先行特許が実際に商業化されたことはなかったが、CAFCはその事実を「無関係」と切り捨てた。特許に開示された情報は公表時点で「一般に知られた情報」となり、製品化の有無にかかわらず秘密性を失うというのが同裁判所の論理である。また、治療用インプラントで公知の解決策を美容用インプラントに転用する行為も、同一の問題を同一の方法で解決するものである限り、新たな営業秘密を生み出さないとされた。
4番目の営業秘密——手術で使用する器具・材料の一覧リスト——については別の理由で保護が否定された。このリストは Cornell 医師のみならず第三者の SCA Surgery にも、機密性を明示する表示なしに電子メールで送付されていた。UTSAが要求する「秘密を維持するための合理的措置(reasonable measures to maintain secrecy)」を欠くと判断されたものである。
営業秘密請求が否定された結果、NDA違反請求も連動して否定された。問題の技術情報は「公に利用可能となった情報(generally available to the public)」に当たり、NDAの免責条項が適用されるためである。守秘義務契約の存在は、開示された情報の実質的な秘密性を補完するものではなく、秘密性の根拠は情報それ自体の性質に求めなければならないという原則が改めて確認された。
特許の発明者認定については、US特許第10,413,413号および第10,980,639号が争点となった。出願当初のクレームには問題の3技術要素が含まれていたが、審査過程で先行技術を理由とした拒絶を受け、出願人は独立クレームを「インプラント上の2箇所における硬度差の測定値」という特徴を含む形に補正した。この補正こそが特許可能性を確保した決定的な変更であり、CAFCは補正後のクレームに定義される発明への実質的な貢献こそが発明者性を決定すると判示した。Elist 医師が貢献したとされる技術要素は先行技術の範囲内にあり、特許許可の根拠となった「硬度差の測定値」という特徴への寄与を示す証拠は存在しなかった。先行技術の内容を提示したに過ぎない者は発明への概念的貢献を行ったとはいえず、共同発明者として認定されないというのが連邦巡回区の一貫した立場である。陪審による発明者未記載・特許無効の認定はここに破棄された。
一方、商標偽造については陪審認定が維持された。Cornell 医師側は、Penuma 商標が製品ではなくサービスに対して登録されているため偽造責任は生じないと主張したが、CAFC は Cornell 医師自身の証言において Penuma インプラントを製品として提供する意図があったことが認定できると述べ、地方裁判所の判断を支持した。
本判決が実務上提示する指針は明確である。第一に、未商業化の先行特許であっても、その記載内容は秘密性を消滅させうる。共同開発・技術提携の場面で情報を開示する前には、その情報が先行技術から切り離されたものであるかを精査することがリスク管理の観点から不可欠である。第二に、特許発明者の認定においては、最終的に許可されたクレームへの実質的貢献こそが評価軸となる。審査過程での補正が加わった後のクレームに対し、各当事者が何を寄与したかを文書で追跡する実務管理体制の重要性が、本件によって改めて浮き彫りになった。
この記事について
パテント探偵社 編集部
知的財産の世界で起きている出来事を、ジャーナリズムの手法で報道・分析する独立メディア。特許番号・法的根拠・当事者名を正確に記述しながら、専門家以外にも読みやすい記事を届けています。掲載内容は法的アドバイスではありません。


コメント