連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は2026年4月14日、VLSI Technology LLC v. Intel Corporation(事件番号24-1772) において、デラウェア地区連邦地方裁判所による非侵害に関する略式判決を一部破棄する先例的判決を下した。Moore長官裁判官が執筆した本判決は、(1)域外適用に関する当事者合意の解釈、および(2)均等論の適用における出願経過禁反言の適用範囲という、特許訴訟実務において高い実務的重要性を持つ二つの論点について判断を示した。
VLSI Technology は、Softbank グループ傘下の Fortress Investment Group が保有する特許ライセンス事業体である。本件では、マルチコアプロセッサシステムにおけるタスクスケジューリング方法および装置に関する米国特許第8,566,836号(「’836特許」)がインテルの製品によって侵害されているとして、CAFCに至るまで複数の法的争点が争われた。’836特許は、処理性能パラメータに基づいて実行すべきコアを選択するという技術的特徴を核心に持つ。
地方裁判所は略式判決によりインテルの非侵害を認定していたが、CAFCはその認定を2つの独立した根拠で破棄した。
第一の根拠は域外適用の問題である。米国特許法上、方法クレームの侵害は原則として全ステップが米国内で実施された場合にのみ成立し、装置クレームの場合も権利行使の対象となる製品の利用・販売が米国内であることが前提となる。地方裁判所は、インテルの製品の製造や一部の工程が海外で行われているという事実を根拠に非侵害を認定していた。
しかしCAFCは、両当事者が公判前に締結した合意書(スティピュレーション)に着目した。この合意書は、インテル製品の70%については米国における関連性(U.S. nexus)を有するものと「みなす」旨を明確に規定していた。CAFCは合意書の文言を「明確かつ曖昧さがない(plain and unambiguous)」と評価し、地方裁判所がこの合意を無視して独自に域外適用の問題を認定した判断は誤りであると指摘した。当事者が手続を円滑に進めるために締結した事実合意は、裁判所を拘束するものであり、一方が事後的にその効力を否定することは許されないというのが同裁判所の立場である。
第二の根拠は均等論(Doctrine of Equivalents, DOE)の適用に関する問題である。均等論は、クレームの文言どおりには製品が該当しない場合でも、置換した要素が「実質的に同一の機能を、実質的に同一の方法で、実質的に同一の結果をもたらす形で」果たす場合には侵害を認める法理である。
出願経過禁反言(prosecution history estoppel)は、均等論の適用を制限するルールである。特許権者が審査中にクレームを補正またはクレーム範囲を限定する主張をした場合、その補正・主張によって放棄した範囲については均等論による権利行使が封じられる。地方裁判所はインテルの非侵害主張を認める際に、VLSI の出願経過における補正を根拠として出願経過禁反言を適用した。
CAFCはこの判断を破棄した。同裁判所は、地方裁判所が補正の内容とその理由を正確に分析せずに禁反言の効果を過度に広く解釈したと指摘した。装置クレームの一部については、地方裁判所が禁反言に基づいてクレームを構成したこと自体が誤りであり、その構成の下で非侵害を認定した判断は原因において誤りを含むと判断された。特に、装置クレームが特定の機能を「実施できる能力(capability)」を有するか否かという分析において、地方裁判所は誤った評価枠組みを採用していたとされた。
一方、損害賠償に関しては地方裁判所の判断が維持された。VLSI 側が主張した損害額算定理論——Dr. Sullivan による正味現在価値(NPV)理論および単価当たりの価値(VPU)理論——については、CAFCは地方裁判所が排除した判断に裁量の濫用はなかったと認定し、これを支持した。本件は差し戻しとなり、修正された枠組みのもとで侵害の有無が再審理されることとなる。
本判決が実務上示す指針は二点ある。第一に、当事者が公判前合意(スティピュレーション)によって事実を確定した場合、その合意は裁判所に対しても拘束力を持ち、訴訟後半での方針変更は原則として許されない。域外適用をめぐる合意は戦略的に重大な意味を持つため、公判前段階での精緻な交渉と文書化が不可欠である。第二に、出願経過禁反言の適用範囲は補正の内容・理由に応じて個別に判断されるべきであり、過度に広汎な禁反言の解釈は CAFC によって修正されうるという点が確認された。特許権者は、出願経過における補正の射程を補正書・意見書の段階で可能な限り明示しておくことが、将来の均等論主張の保全にとって重要である。
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パテント探偵社 編集部
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