連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は2026年4月14日、VLSI Technology LLC対インテル・コーポレーション(Intel Corporation)事件(事件番号24-1772)において先例拘束力を持つ判決を下し、カリフォルニア北部地区連邦地裁がインテルの申立に基づいて認めた二件の非侵害略式判決を取り消した。本判決はチーフジャッジ・ムア(Moore)が執筆したもので、マルチコアプロセッサにおけるタスク実行コアの選択方法に関するVLSIの米国特許第8,566,836号(’836特許)の侵害争点について、地裁段階の分析に複数の誤りがあったと認定した。
事件の背景
‘836特許は、マルチコアプロセッサにおいて特定タスクを実行するコアを選択する方法および装置に関するものであり、タスクが単一コアで処理される必要があるか複数コアにまたがって処理できるかといったパフォーマンスパラメータに基づいてコアを割り当てる技術を保護している。
VLSIはインテルのプロセッサ製品が同特許を侵害していると主張してカリフォルニア北部地区に提訴した。地裁は(1)域外適用(extraterritoriality)を理由とする非侵害略式判決、および(2)均等論(doctrine of equivalents、DOE)に基づく侵害主張を退ける略式判決の二件をインテルに有利な形で認めた。さらに地裁は、VLSIの損害賠償専門家サリバン博士が提出したNPV(純現在価値)およびVPU(バリュー・パー・ユーザー)理論を証拠として排除する申立をも認容していた。
CAFCの判断——非侵害認定の逆転
CAFCは二件の略式判決のいずれについても地裁の判断に誤りがあったと認定し、原審に差し戻した。
第一に、域外適用に基づく非侵害判決については、CAFCは当事者間の審前合意(pretrial stipulation)がインテルの行為に関して米国内の接点(U.S. nexus)を確立していたと判示し、地裁はこの合意の内容を適切に考慮せずに略式判決を認めたと認定した。また、装置クレームに関しても、地裁はクレームが求める機能を実行する「能力(capability)」の分析を誤ったと指摘した。
第二に、均等論に基づく侵害主張を退けた略式判決については、CAFCは地裁が審査経過禁反言(prosecution disclaimer)の解釈を誤り、特許クレームの範囲を不当に狭く構成したと判断した。均等論の適用においては、出願経過において申立人が自発的に放棄した範囲についてのみ禁反言が生じるところ、地裁の構成はその範囲を超えていたというのがCAFCの判断である。
損害賠償理論の排除は維持
ただし、損害賠償専門家の証言排除については、CAFCは地裁の判断に裁量権の濫用はなかったとして維持した。VLSIが提出したNPVおよびVPUを用いた損害算定理論は、事実認定者に対する証明力を著しく欠くとした地裁の判断を、CAFCは支持した。
VLSI対インテル訴訟の全体像
VLSI対インテルの一連の訴訟は、チップ特許分野で近年最大規模の訴訟案件の一つとして知られる。VLSIはNXPセミコンダクターズから特許を取得して設立されたノン・プラクティシング・エンティティ(NPE)であり、インテルに対して複数の訴訟を提起してきた。別の事件ではテキサス西部地区の陪審が2021年にインテルに対して22億ドルの損害賠償を命じる評決を下したが、その後の控訴審で重要な争点について結論が変わるなど、複数の審理が並行して進行している。
今回の24-1772事件の判決により、’836特許に関するVLSIの侵害主張はカリフォルニア北部地区での審理に戻ることとなった。インテルにとっては、略式判決による早期終結が失われ、正式な陪審審理を含む本格的な訴訟段階に移行するリスクが生じている。
実務上の意義
本判決は、マルチコアプロセッサを含む半導体・IT製品に関する特許訴訟において、域外適用論および均等論の両面で重要な先例を提供する。
域外適用論については、当事者間合意が米国内の接点の証明に用いられ得るとした点が注目される。国際的なサプライチェーンにまたがる製品の特許侵害訴訟では、行為の地理的帰属をめぐる争点が頻出しており、本判決の論理は今後の類似事件の訴訟戦略に影響を与える可能性がある。
均等論については、審査経過禁反言の範囲を過度に拡張した略式判決を排除したことで、特許権者側が均等論主張を実質的に温存できる余地が維持された。特許クレームの権利範囲を精緻に管理する観点から、出願段階における補正の意図と内容の記録を明確にしておくことの重要性を改めて示す判決といえる。
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パテント探偵社 編集部
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