欧州特許庁(EPO)では2026年4月現在、職員組合(SUEPO: Staff Union of the European Patent Office)による労働争議が長期化・拡大しており、特許付与件数に顕著な落ち込みが生じている。SUEPOが2026年4月16日に公表した声明によれば、直近3日間のスト参加は累計約5,000件に達し、グラント(特許付与)を中心に約6,000件の業務産出が失われたとされる。EPOの特許付与は各国特許庁の主要な収入源でもあり、影響は欧州各国に及ぶ見通しだ。
争議の発端となっているのは、EPOの給与調整手続き(Salary Adjustment Procedure: SAP)をめぐる労使間の対立だ。SAPの6年間の見直しで、EPO職員の給与はインフレ(生活費の上昇)と比較して累積マイナス6.8ポイントの差が生じていることが確認されている。EPOが新たに提案しているSAPは、組織全体でさらに14億ユーロ(約2,300億円)のコスト削減を目指す内容であり、職員の実質的な購買力をさらに引き下げるとして、強い反発を招いている。SUEPOは、年金掛金の引き上げも報酬への追加的な打撃になると指摘する。
SUEPOは2026年3月23日にEPO長官に対して給与交渉への応諾を求める公開書簡を送付したが、4月16日時点で長官からの返答はなかったとされる。同日付でSUEPOはすべてのEPO拠点の組合委員会連名による公開書簡を新たに発出し、長官に対して即時の対話開始を求めた。
スト行動は今後さらに激化する可能性がある。SUEPOは、職員の懸念が十分に解消されず満足のいく解決策が見つからない場合、4月以降は少なくとも週2日、最終的には4月から12月のすべての労働日を「スト実施日」に指定する恒常的スト体制に移行する方針を示している。こうした長期化シナリオが現実になれば、欧州特許審査手続きの大規模な遅延が避けられない状況となる。
EPOは欧州特許条約(EPC)加盟国を通じて事実上の欧州単一特許審査機関として機能しており、年間約18万件を超える特許付与を行っている(EPO年次レポートによる)。スト長期化による付与件数の減少は、欧州市場への参入を目指す日本企業を含むグローバル出願人にとっても、権利化スケジュールの遅れや審査コストの増加という形で影響が及ぶ可能性がある。
EPO労使交渉の帰趨は、欧州知財コミュニティが引き続き注視する必要がある。
この記事について
パテント探偵社 編集部
知的財産の世界で起きている出来事を、ジャーナリズムの手法で報道・分析する独立メディア。特許番号・法的根拠・当事者名を正確に記述しながら、専門家以外にも読みやすい記事を届けています。掲載内容は法的アドバイスではありません。


コメント