米国特許審判部(PTAB)をめぐる手続き環境が急速に変容している。Unified Patentsが2026年4月14日に公表した「2026年第1四半期 特許争訟レポート」によれば、米国発明法(AIA)に基づく当事者系レビュー(Inter Partes Review; IPR)申請件数が前年同期比66.3%減と記録的な落ち込みを示した一方、査定系再審査(ex parte reexamination)の申請件数は前年同期比157.1%増と急増した。USPTO長官John A. Squiresが推進する裁量的却下政策と審判手続の再設計が実務界に与える影響が、統計として具体化してきた。
IPR申請が史上最低水準——64%減は「政策の反映」
2026年第1四半期のPTAB全体の新規申請件数は131件にとどまり、前年同期比64.2%減を記録した。IPR申請に絞ると減少率は66.3%に達し、制度創設以来の最低水準となった。
この急減をもたらした直接的な要因は、Squires長官体制が進めてきた裁量的却下(discretionary denial)の強化にある。2026年2月24日付の裁量的却下命令において、Squires長官は検討対象としたすべての申請のうち64%を裁量的に却下した。他方、裁量的却下を回避してメリット審理(merits review)に進んだ申請については、2026年に入っても約70%近い高い認容率を維持している。
USPTO公式統計によれば、PTABの審理認容率(institution rate)はFY2024の68%からFY2026年度途中時点(YTD)の42%へと低下した。2025年後半にほぼゼロに近い認容率が観測されていた時期(Patently-Oの分析では2025年11月時点で0%前後)と比較すると、メリット審理通過案件の認容率は依然高いものの、「門前払い率」が激増している構造が明確になった。
査定系再審査が2倍超——157%増の数字が示すもの
AIA手続きの閉塞に対する実務界の反応として注目されるのが、査定系再審査(ex parte reexamination)の急増だ。2026年第1四半期の申請件数は223件に達した。Q1 2024の108件、Q1 2025の109件と比較すると、いずれもほぼ倍増であり、前年同期比では157.1%の増加となる。
査定系再審査はIPRと異なり、第三者が申請した後は審査の主体がUSPTOに移り、申請者は手続きから実質的に排除される。このため、IPRが持つ「当事者による積極的な参加・証拠提出」という機能が失われる。それでも、IPRの入口が事実上閉ざされた現在、手続コストと予測可能性のトレードオフを承知の上で再審査ルートを選択する実務者が増加している。
Squires長官は2026年4月1日付の官報公示(Official Gazette Notice)を通じて、SNQ(実質的な新規問題のpatentability)存否判断前に特許権者が30ページの反論書面を提出できる新制度(「pre-order submission」)を設けた。この制度は2026年4月5日に発効しており、申請急増の中での制度的な吸収が今後の統計に反映されることになる。
政策方針の三本柱:外資排除・製造業保護・RPI開示強化
Squires体制のIPR政策を整理すると、大きく三つの方針が浮かびあがる。
第一に、外国政府・国有企業の排除だ。2026年3月18日、長官は当事者系レビュー(IPR)申請において、外国政府またはその傘下企業をRPI(real party in interest)として参加させることを禁止する先例的判断を下した。同決定は中国の国有半導体メーカーYMTC(Yangtze Memory Technologies Co.)に対する1月の先行決定を追認・一般化したものである。
第二に、米国製造業優遇だ。2026年3月11日付のDirector Memorandumでは、IPR/PGR(付与後レビュー)申請に係る製品が米国内で製造・販売されているかどうかを新たな裁量的考慮要素として追加した。Unified PatentsのQ1 2026レポートによれば、NPE(非製造実体)に対するPTAB審理の認容率は、営業会社(operating company)に対するものより15%以上低かった。
第三に、申請資格・RPI開示の強化だ。Squires長官は前任体制が緩和していたRPI(真の利害関係者)の開示基準を復活させ、審理前の申請者情報の完全開示を求めている。これは外国政府系企業の迂回申請を封じる目的とも連動している。
実務への示唆
IPR申請を検討している企業は、裁量的却下の壁を越えるための事前分析が今まで以上に重要になった。特に申請者の属性(製造業か否か、国内拠点の有無)が審理認容に影響するため、申請前のRPI分析と製造状況の整理が求められる。
特許権者(被申請者側)にとっては、新たなpre-order submission制度を活用して再審査の早期終結を図る戦略が生まれた。一方、特許を無効化したい当事者にとっては、IPRの閉塞を受けて再審査への移行が不可避となりつつある。ただし査定系再審査は、IPRと異なり手続きの透明性・予測可能性が低く、特許権者に有利な運用がなされることもある点を考慮する必要がある。
次の四半期統計(Q2 2026)は2026年7月頃の公表が見込まれる。新制度の効果と申請急増の継続性が数値として確認されることになる。
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パテント探偵社 編集部
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