2026年4月21日、米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は、In re Hybir, Inc.事件(事件番号:No. 25-1367)において、Hybir社が提起した特許適格性(35 U.S.C. §101)に関する控訴を「事件性の消滅(moot)」を理由に却下した。本決定は非先例的意見(nonprecedential opinion)として出された。和解協定に設けられた「100ドルの選択的ライセンス条項」が判決の命運を分けた。裁判所は、この条項が控訴の結果に対する「サイドベット(side bet)」に相当すると認定し、控訴を維持するための法律上の利益(case or controversy)が存在しないと結論づけた。
事案の経緯
Hybir社は、米国特許第8,051,043号(以下「’043特許」)の特定のクレーム(クレーム3、4、7、16、17、20)がVeeam Software Corp.による侵害を受けたとして、マサチューセッツ州連邦地方裁判所に訴訟を提起した。Veeam Software Corp.はデータバックアップ・管理分野に特化したソフトウェア企業である。
連邦地方裁判所は、Veeamの申立てを認め、問題のクレームが35 U.S.C. §101のもとで特許不適格であるとして訴えを却下する判決を下した。Hybir社はこれを不服としてCAFCに控訴した。
和解協定の「100ドル条項」
控訴審係属中、HybirとVeeamは和解協定(Settlement and Limited Patent License Agreement)を締結した。この協定の主要な内容は以下のとおりである。
第一に、Hybir社はVeeamに対し、’043特許以外の複数の特許をライセンス付与した。第二に、Hybir社は’043特許に関する地裁判決に対する控訴権を明示的に留保した。第三に、控訴審手続きの終了後、VeeamはHybirに対し100ドルを支払うことで、当該協定のライセンス対象特許リストに’043特許を追加する選択権(option)を取得できると定めた。
「サイドベット」法理の適用
CAFCは、2013年のAllflex USA, Inc. v. Avid Identification Systems, Inc.事件において、控訴の勝訴によって支払額が5万ドル減額される旨の和解条項が「サイドベット」にあたり、控訴を無意味(moot)にするとの判断を示していた。
今回のHybir事件でCAFCは、同じ法理が100ドルのオプション条項にも適用されると判示した。Veeamにとって、控訴の結果にかかわらず100ドルさえ支払えば’043特許のライセンスを取得できるという取り決めは、その経済的性質において「控訴の成否に賭けた(side bet)」ものに相当する。この構造のもとでは、両当事者の間に実質的な争訟上の利益がもはや存在しないとCAFCは認定した。
CAFCは控訴を却下し、原審(マサチューセッツ連邦地方裁判所)に対して、管轄権欠如(lack of jurisdiction)を理由として訴えを却下するよう命じた。
実務上の含意
本件が実務界に与える示唆は小さくない。
特許訴訟において当事者が和解協定を締結しつつ控訴審でのアドバンテージを維持しようとする場合、和解の経済条件が控訴の結果と連動する設計になっていると「サイドベット」と認定されるリスクがある。特に、「控訴後に特定の金額を追加支払いすることで追加ライセンスを取得できる」「控訴に勝った場合は支払額が減額される」といった条項は、係争の実質的な法律上の利益を消滅させうる。
§101(特許適格性)をめぐる訴訟は、AIを含むソフトウェア・ビジネス方法特許の分野で現在も多数係属している。権利者が§101敗訴判決を控訴審で争うと同時に和解を検討する局面では、和解設計の段階から控訴の無効化(moot化)を回避するための法的分析が必要となる。
Allflex事件(5万ドルの減額条項)に続き、本件ではさらに少額の100ドルのオプション条項が「サイドベット」と認定された点は注目に値する。金額の多寡ではなく、経済的な連動性の有無が判断基準であることをCAFCは改めて確認した。本決定は非先例的意見であるため拘束力は限定的だが、「サイドベット」法理の適用範囲を示したものとして実務的な参照価値を持つ。
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パテント探偵社 編集部
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