米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は2026年4月14日、VLSI Technology LLC対Intel Corporation事件において先例的判決を下し、カリフォルニア北部地区連邦地裁によるIntelへの非侵害に関する略式判決を破棄した。ムーア主席判事が執筆したこの判決は、特許権者VLSI Technologyの部分的な逆転勝訴を意味し、米国第8,566,836号特許(発明の名称:「マルチコア・システム・オン・チップ(Multi-core System on Chip)」)をめぐる訴訟が継続審理に戻ることになった。
本件は、VLSI TechnologyがIntelに対して複数の半導体関連特許の侵害を主張した一連の訴訟の一部である。問題となった米国特許第8,566,836号は、複数のプロセッサコアを統合したシステム・オン・チップ(SoC)アーキテクチャに関する発明を権利範囲とする。VLSI Technologyは、Intelの各種プロセッサ製品が同特許を侵害していると主張し、カリフォルニア北部地区連邦地裁に提訴した。
原審であるカリフォルニア北部地区連邦地裁は二つの判断を下していた。第一に、同特許に関するIntelの非侵害を認める略式判決を認容した。第二に、VLSIの損害賠償の専門家証人が提出した損害算定理論を証拠から排除した。CAFCは、この二つの原審判断をいずれも覆した。
ムーア主席判事が執筆した先例的判決において、CAFCは原審の特許クレーム解釈および非侵害の認定に誤りがあったと判示した。クレーム解釈(claim construction)は特許侵害訴訟における根幹的な法的問題であり、その誤りが非侵害判断を導いたとCAFCは結論づけた。また、損害賠償の専門家証人の排除についても、原審の判断を支持する十分な根拠がないとして破棄した。
本判決が先例的判決(precedential opinion)とされた点は注目に値する。先例的判決はCAFCが管轄する将来の事件に対して拘束力を有するため、特許クレーム解釈の方法論やSoCアーキテクチャに関連する特許の権利範囲解釈について、業界全体に影響を及ぼす可能性がある。特に、半導体・プロセッサ技術を有する企業にとって、今後の特許戦略や訴訟対応の参考になる判断基準を提示したといえる。
VLSI Technologyは、かつてフィリップス(NXP Semiconductors)傘下にあった半導体企業から分社化した特許保有会社として知られる。近年、同社はIntelに対して複数の特許侵害訴訟を提起し、数十億ドル規模の損害賠償認定を獲得してきた実績がある。2021年にはテキサス西部地区連邦地裁において21億8,700万ドルの損害賠償を認容する陪審評決を得たことが報じられており、VLSIとIntelの間で続く一連の訴訟の文脈で本件は位置づけられる。
一方、Intelは半導体業界で有数の特許ポートフォリオを保有するが、近年は複数の特許権者から提訴を受ける立場に置かれている。今回のCAFC判決により事件が差し戻されたことで、改めてクレーム解釈と損害額の算定が争点として審理される見通しとなった。差し戻し後の地裁審理の行方が注目される。
本件のCAFCにおける審理経緯については、IPWatchdog(2026年4月14日付)が詳報している。問題の特許(米国第8,566,836号)はGoogle Patentsで公開情報として参照可能である。本判決が先例として位置づけられた背景には、SoCアーキテクチャに関連するクレーム解釈の方法論および損害算定の専門家証人採用基準に関する法的不確実性を解消する必要があるとCAFCが判断したことが示唆される。半導体・SoC関連特許をポートフォリオに抱える企業、および特許侵害訴訟のリスク管理を担当する企業法務・知財担当者にとって、本件の続審の行方は注視すべき動向といえる。
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パテント探偵社 編集部
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