USTR、2026年スペシャル301条報告書を公表――ベトナムを優先外国国に初指定、EUを監視リストへ新規追加

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米国通商代表部(USTR)は2026年4月30日、貿易法第182条に基づく年次報告書「スペシャル301条報告書」の2026年版を公表した。同報告書は、米国の貿易相手国・地域における知的財産(IP)保護・執行の充実度を毎年評価するもので、今年は100以上の貿易相手を審査した結果、ベトナムを最も厳しい区分「優先外国国(Priority Foreign Country: PFC)」に指定し、欧州連合(EU)を新たに「監視リスト(Watch List)」に追加するという重大な変更を行った。

ベトナムをPFCに指定――30日以内に第301条調査開始の判断へ

PFC(優先外国国)指定はスペシャル301条の枠組みで最も重い区分であり、米国はベトナム指定から30日以内に1974年通商法第301条に基づく調査の開始を判断しなければならない。調査が開始された場合、USTRはベトナム政府との協議を要請し、PFC指定の根拠となった問題の解決を図る。

ベトナムへの主要懸念事項として、インターネット上の著作権侵害の蔓延、商業規模でのソフトウェア不正コピー、知的財産権の行政的・司法的執行の不十分さが長年にわたって指摘されてきた。USTRのジェイミソン・グリア代表は「不公正な貿易慣行に対処するための執行ツールをすべて活用することが最優先事項だ。貿易相手国のIP慣行を厳格に審査し、世界各地で米国のイノベーターやクリエイターを守るために必要な措置を取る」と述べた。

優先監視リスト:6カ国が継続指定

「優先監視リスト(Priority Watch List)」には、チリ、中国、インド、インドネシア、ロシア、ベネズエラの6カ国が掲載された。USTRは今後1年間、これら各国と集中的な二国間協議を行う方針を示している。

中国については、強制的な技術移転要求、営業秘密の窃取、偽造品・海賊版の製造・輸出が引き続き主要な懸念事項として挙げられている。インドについては、製薬特許における特許性要件(特に特許法第3条d項)の解釈問題や、著作権保護の実効性に関する課題が継続して指摘されている。

EUを新規追加:欧米間のIP政策摩擦が表面化

今年の最大の変化のひとつが、欧州連合(EU)の「監視リスト」への初の掲載である。監視リストには全19の貿易相手が含まれており、アルジェリア、アルゼンチン、バルバドス、ベラルーシ、ボリビア、ブラジル、カナダ、コロンビア、エクアドル、エジプト、グアテマラ、メキシコ、パキスタン、パラグアイ、ペルー、タイ、トリニダード・トバゴ、トルコに加え、今回EUが加わった。

EUの監視リスト追加の背景として、医薬品分野のデータ保護期間や特許存続期間延長(SPC)制度における米国基準との差異、デジタル単一市場著作権指令に代表されるデジタル分野の著作権規制をめぐる米欧間の政策摩擦が挙げられる。USTR知財担当のリック・スウィッツァー大使は「互恵的貿易協定の交渉やその他の関与を通じて、貿易相手国に対してIP分野の貿易障壁を解決するよう働きかけ続ける」と述べた。

アルゼンチン・メキシコは降格(改善評価)、ブルガリアは除外

一方、知財政策の重要な改善が認められたとして、アルゼンチンとメキシコが「優先監視リスト」から「監視リスト」に降格(緩和)された。ブルガリアは監視リストから完全に除外された。

メキシコについては、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の枠組みのもとでの知財保護体制の整備・強化が評価されたとみられる。アルゼンチンについても、知的財産法制の整備や行政執行の取り組みが前進したとUSTRが判断した。

スペシャル301条の枠組みと今年の手続

スペシャル301条報告書は1974年通商法第182条を根拠とし、1988年包括通商競争力法およびウルグアイ・ラウンド協定法による改正を経て毎年実施される制度である。USTRは2025年12月11日に連邦官報でパブリックコメントを募集したところ、38の民間利害関係者と19の外国政府から提出書類が寄せられた。また2026年2月18日には公聴会を開催し、外国政府代表・産業界・非政府組織の関係者が証言を行った。提出書類はwww.regulations.govのドケット番号USTR-2025-0243で公開されている。

IP実務者・グローバル企業への示唆

今回の報告書で特に注目すべき点は二つある。第一に、EUという主要先進経済圏が初めて監視リストに掲載されたことである。EU域内でビジネスを展開する日本企業・米国企業は、今後の米EU間IP協議の進展と、その結果として生じうる規制変更を注視する必要がある。特に医薬品特許や著作権分野での政策動向の追跡が求められる。

第二に、ベトナムのPFC指定である。製造・輸出拠点としてベトナムを活用している企業は、米国政府が今後30日以内に開始する可能性のある第301条調査の行方、および米越間の通商交渉の動向を継続的にモニタリングする必要がある。著作権管理やソフトウェアライセンス管理を現地サプライヤーに委託している場合は特に、IP侵害リスクの再評価が推奨される。

2026年スペシャル301条報告書の全文はUSTRウェブサイト(ustr.gov)で公開されている。

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パテント探偵社 編集部

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