英国高等法院(特許部)のMeade判事は2026年5月1日、サムスン電子とZTE(中興通訊)の間で係争中の標準必須特許(SEP)クロスライセンス更新をめぐる訴訟において、サムスンがZTEに3億9200万ドルを一括支払うことがFRAND(公正・合理的・非差別的)条件に相当するとする判決を下した。本件はSamsung Electronics Co, Ltd v ZTE Corporation [2026] EWHC 999 (Pat)として記録され、グローバルSEPライセンス価格決定の先例として注目を集める。
訴訟の背景
両社は2021年に特許ライセンス契約(PLA)を締結したが、2024年の更新交渉が決裂した。争点はライセンスそのものの必要性ではなく、その価格設定にあった。サムスンは2024年12月、ロンドンの高等法院にZTEを提訴し、FRAND条件の司法的決定を求めた。ZTEは並行して、ブラジル・中国・ドイツの各裁判所においても関連訴訟を提起し、グローバルな圧力をかける戦略をとった。
判決の主要内容
Meade判事は、サムスンの上限主張額2億ドルとZTEの要求額7億3100万ドルの間に位置する3億9200万ドルをFRAND一括支払額と認定した。判決はサムスンを純支払者としており、ZTEのSEPポートフォリオがサムスンのそれを上回ると評価したことを反映している。
比較可能なライセンスの検討においては、エリクソン・ノキア・インターデジタル(ENI各社)との既存ライセンスを参考指標として採用することを拒否した。Meade判事は、ENI各社のポートフォリオは構成および地理的カバレッジの観点でZTEのそれと実質的に異なること、またENI各社が訴訟(特にドイツにおける迅速な差止め)を積極的に活用する能力を持つことから、その合意額にはFRANDを超えたプレミアムが含まれている可能性が高いと判断した。
非金銭的条項についてはサムスン側の主張が認められた。Meade判事は、ZTEが非金銭的条項の交渉から撤退したのは戦略的な判断であり、原則に基づくものではないと認定し、サムスンが求めた条項構造のみが適切にFRANDの範囲内にあるとした。
米国制裁と「非FRAND要素」
本件における注目点の一つが、米国の輸出規制制裁がZTEの交渉上の立場に与えた影響である。裁判所は、この制裁という「非FRAND要素」がライセンス交渉の文脈においてどのように評価されるかという問題を詳細に検討した。制裁対象企業がSEP訴訟においてどのような地位を占めるかをめぐる議論は、今後のSEPライセンス実務に影響を与える可能性がある。
英国裁判所のグローバル管轄とSEP実務への影響
英国最高裁判所が2020年に下したUnnati Patel v Mirza事件以降に確立された判例法に基づき、英国高等法院はグローバルFRAND条件を決定する管轄権を有している。英国裁判所がグローバルレートを決定できるという確立した地位は、SEPライセンスの交渉当事者が英国を訴訟地として選択する動機となっている。
本判決は、SEPライセンスの価格決定において比較可能ライセンスの分析をどのように行うべきか、また制裁という外部的要素をFRAND評価においてどのように位置づけるかについて、実務上の指針を提供するものとして注目される。テレコム業界における主要な技術標準(5G・LTE等)の実施者・特許権者双方にとって、今後の訴訟・交渉戦略の参考となりうる。
今後の見通し
サムスン・ZTE両社はいずれも判決についてコメントを控えており、両社ともに控訴の権利を保留している。ZTEが継続中のブラジル・中国・ドイツの手続きと今回の英国判決との関係、および各法域での判断の整合性も今後の注目点となる。
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パテント探偵社 編集部
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