ファイバーレーザー世界最大手の米IPGフォトニクス(NASDAQ: IPGP)とドイツのTRUMPF Laser- und Systemtechnik SEは2026年5月5日、両社間のすべての特許訴訟を全世界で取り下げる和解に合意したと発表した。欧州統一特許裁判所(Unified Patent Court、以下UPC)が2026年2月と3月に相次いでIPGの製品による特許侵害を認定した後の決着であり、UPC開廷後の国際的な大型特許紛争事案に一区切りがついた形となる。
UPCによる2件の侵害認定
UPCマンハイム地方部は2026年2月25日、IPGの調整可能モードビーム(AMB: Adjustable Mode Beam)レーザー製品が欧州特許EP 2,951,625を侵害するとの判決を下した。本特許はTRUMPFが保有するレーザー技術に関するものであり、対象となるIPG製品はドイツ・フランス・イタリアを含むUPC締約国7カ国で販売されたAMBレーザーで、IPGの総売上の1%未満とされる。
続いて同年3月16日には、UPCデュッセルドルフ地方部が欧州特許EP 2,624,031についても、IPGのAMBレーザーの特定の使用形態および設計が同特許を侵害すると認定した。こちらの決定はドイツ・フランス・イタリアの3カ国におけるAMBレーザー製品に影響するとされる。
IPGは両判決に対して不服申し立てを行う意向を表明し、当該製品の顧客向けに代替措置を講じるとしていた。またIPG側も米国テキサス州においてTRUMPFを相手取った反訴を提起していた。
グローバル和解の内容
IPGは2026年5月5日付のプレスリリースで、TRUMPFとの間で全世界の特許訴訟を取り下げることで合意したと発表した。IPGは和解費用として1,350万ドルの損失計上を2026年第1四半期の財務報告に反映した。
和解条件として、IPGは当該2件の欧州特許について全世界でのライセンス料の一括払いおよび今後のロイヤリティ支払いに合意した。これに対しTRUMPFはUPCでの判決を取り下げた。またIPGはテキサスでのTRUMPFに対する訴訟を取り下げ、TRUMPFはUPC以外の手続きにおける申し立ても取り下げることとなった。これにより、両社間の全世界の係争が終結した。
欧州統一特許裁判所の執行力が問われた事例
UPCは2023年6月に開廷した欧州の新たな特許専門裁判所であり、単一の判決がすべてのUPC締約加盟国(現在26カ国)に同時に効力を持つ制度設計が最大の特徴である。従来の欧州特許紛争では各国ごとに訴訟を提起する必要があったが、UPCによって一括した差し止めや損害賠償命令が実現可能となった。
本件では、UPCが複数の地方部(マンハイムおよびデュッセルドルフ)を通じて同一の対立当事者に対して連続して侵害判決を下したことで、UPCの執行力と影響力を示す初期の具体的事例となった。対象製品がIPGの総売上の1%未満であったにもかかわらず、IPGが1,350万ドルの和解費用を負担してグローバル和解を選択した背景には、UPCによる欧州全域での差し止め命令が拡大するリスクへの懸念があったとみられる。
AMBレーザーは複数の出力ビームモードを切り替えることで溶接・切断精度を高める高付加価値製品であり、IPGおよびTRUMPFはともに産業用レーザー市場の主要競合企業である。両社の特許紛争は2020年代初頭から欧米各地で展開されてきたが、本和解によりすべての係争が終結した。
UPCの活用を進める欧州の特許権者にとって本件は、UPCを通じた権利行使が現実的な解決圧力をもたらし得ることを示すものとして参照価値を持つ。
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パテント探偵社 編集部
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