DTSA不当利得賠償の判断基準をめぐり巡回区で解釈が分裂──タタ対CSCの最高裁上告審請求が焦点

知財ニュース

米国の連邦営業秘密法(Defend Trade Secrets Act、以下DTSA)が定める不当利得(unjust enrichment)賠償の成立要件をめぐり、第5巡回区控訴裁判所と第2巡回区控訴裁判所の間で解釈の齟齬が生じている。現在、インドのIT大手タタ・コンサルタンシー・サービシズ(Tata Consultancy Services、以下TCS)が米国Computer Sciences Corporation(CSC、現DXC Technology)を相手取ったDTSA訴訟をめぐり、TCS側が米国最高裁判所に上告審裁量申請(certiorari petition)を行っており、2026年5月7日に被申請側の答弁書が提出期限を迎えた。最高裁がcertを認容すれば、DTSAの損害賠償論に関する初の最高裁判決となる。

事案の概要

TCSはCSCのソフトウェア開発に関する機密情報に不正にアクセスし、自社の競合製品の開発に活用したとされる。テキサス州の陪審は2023年にTCSに対して約2億1000万ドルの賠償を命じた。内訳は、TCSが「回避した開発費用」に相当するとして算定された5600万ドルの不当利得賠償と、故意・悪意ある行為に対する懲罰的賠償1億1200万ドルなどである。

第5巡回区控訴裁判所は2025年11月の判決(Computer Sciences Corp. v. Tata Consultancy Services Ltd., No. 24-10749)において、原告CSCが自ら実際の損害(actual loss)を被ったことを立証しなくても、被告TCSが不正競争行為によって回避した開発コストに基づく不当利得賠償は認められるとして、一審判決を支持した。

巡回区間の解釈分裂

TCSの上告審裁量申請(事件番号No. 25-1107)が提起する核心的法律問題は、「DTSAの不当利得賠償には、原告が実際の損害を被ったことの立証が必要か否か」である。

第2巡回区控訴裁判所は先行するSyntel Sterling Best Shores Mauritius Ltd.事件において、DTSAに基づく不当利得賠償の請求には「補償可能な損害(compensable harm)」の立証が前提条件となると判示し、被告の回避コスト単独では不十分との立場を示していた。

これに対して第5巡回区は、DTSAの文言上「不当利得」は被告の利得に着目した独立した救済手段であり、原告の損失とは切り離して算定できるとの解釈を採用した。両巡回区の立場は明確に矛盾しており、DTSAが適用される連邦営業秘密訴訟において管轄区域によって異なる法的基準が適用されるという実務上の問題を生じさせている。

法的意義

DTSAは2016年に成立した連邦法であり、それ以前は営業秘密の保護は各州の不正競争防止法等に委ねられていた。DTSAの制定により連邦裁判所での一元的な訴訟提起が可能になった一方、同法の損害賠償規定の解釈については未解決の問題が残されていた。不当利得賠償を「原告の実損害なしに被告の回避コストで算定できる」とする第5巡回区の立場が定着すれば、訴訟における損害算定の幅が広がり、被告企業にとってのリスクが大幅に増大する。

本件のような「回避コスト型」不当利得算定は、特にITサービス・コンサルティング業界において頻繁に問題となる。競合他社のシステム設計やアーキテクチャに関する秘密情報を得た企業が、その情報を利用して自社の開発コストを節減した場合、原告が実際にどの程度の損害を受けたかにかかわらず、被告側の節減額が賠償の基準になりうるためである。

最高裁がcertiorariを認容するか否かは2026年中に明らかになる見通しであり、DTSAの訴訟実務に大きな影響を与えうる案件として、知財実務家および企業法務の間で注目されている。

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パテント探偵社 編集部

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