米上院は2026年3月19日、安全基準の著作権保護のあり方を規定する「Protecting and Enhancing Public Access to Codes Act of 2026(Pro Codes Act)」(S.4145)を再上程した。超党派の4人の議員——ジョン・コーニン(R-TX)、クリス・クーンズ(D-DE)、マジー・ヒロノ(D-HI)、トム・ティリス(R-NC)——が共同発議した同法案は、法律に名称で組み込まれた安全基準が著作権保護を失わないよう担保することを目的とする。ただし、基準の全文がウェブサイト上で無償公開されている場合に限るという条件付きだ。著作権保護の維持を求める基準設定団体と、法令として公開される安全基準へのアクセスを求める公益団体との間で対立が続くなか、同法案の論争は今会期でも再燃している。
同法案は過去複数の議会会期で繰り返し提出されてきたが、成立には至っていない。支持側と反対側の間にある根本的な対立——著作権保護と法令へのパブリックアクセスという2つの価値観の衝突——が解決されていないためだ。今回の再上程は、その論争に新たな局面をもたらす可能性がある。
法案の目的:組み込み基準の著作権保護を維持する
Pro Codes Actが対象とするのは、建築基準法や消防規則など、政府の法令・規制に名称で参照(incorporation by reference)される形で組み込まれた民間の安全基準だ。現行法の解釈をめぐっては、こうした「参照組み込み」が行われた時点で当該基準が公有(パブリックドメイン)に移行するという主張がある。こうした解釈が確立されれば、基準設定団体は著作権収入を失い、基準の維持・更新にかかるコストを賄えなくなると訴える。
同法案の共同発議者たちは、「法律に名称で組み込まれた安全基準が著作権保護を失わないようにする。ただし、当該基準が公開ウェブサイト上で無償閲覧できる場合に限る」と説明している。つまり、無償公開という条件を満たしながらも著作権を維持できる——という折衷的な枠組みを提案している。
支持側の論拠:著作権がなければ基準の質が維持できない
著作権同盟(Copyright Alliance)のキース・クップファーシュミット代表は「著作権保護が有効でなければ、これらの組織が公共や立法者が信頼する高品質な基準を今後も作り続けられなくなるという深刻なリスクがある」と述べた。米国防火協会(NFPA)や国際コード評議会(ICC)なども支持側に名を連ねており、著作権収入が基準更新・維持の資金源となっているとして、その喪失が基準の質低下に直結すると主張している。
こうした基準設定団体は、政府から直接資金を得ていないケースが多く、基準文書の販売・ライセンス収入を主たる財源としている。建築基準や電気規格、防火規則といった公共安全に直結する基準が、著作権収入なしに持続的に更新・改訂できるかどうかという問題は、公益の観点からも重要な論点だ。
反対側の論拠:法律はパブリックドメインであるべき
一方、Public Knowledgeのメレディス・ローズ氏は同法案を「すべての市民に影響する法律をペイウォールの後ろに置こうとする露骨な試み」と批判した。米国機械学会(ASME)、研究図書館協会(Association of Research Libraries)なども反対を表明している。
反対側の主張の核心は、法令として効力を持つ安全基準は「法律」であり、法律はパブリックドメインに属するべきだという原則論だ。建築主や事業者、市民が自らに適用される安全基準を知るためには、無制限・無償でアクセスできる必要があるという点は、法の支配の観点から説得力を持つ。また、このような基準を著作権法の保護下に置くことは、法律の公開性という民主主義の基本原則と相容れないという指摘もある。
繰り返される立法の試みと未解決の根本矛盾
Pro Codes Actは、過去複数の議会会期で形を変えながら繰り返し提出されてきた法案だ。その都度、基準設定団体の支持と公益団体の反対という構図は変わらず、最終的な成立には至っていない。今回の再上程でも、この根本的な対立——民間が作成した安全基準を法令に組み込む際に著作権保護を継続するか否か——は解消されていない。
注目すべきは、同法案の共同発議者の一人であるトム・ティリス上院議員が、同じ2026年3月25日にCSISのLeadershIP 2026カンファレンスにも登壇していることだ。ティリス議員は知財政策に精通した立法者として知られており、著作権・特許両分野で積極的な立法活動を展開している。
知財実務への示唆
Pro Codes Actをめぐる論争は、知財権と公益アクセスという価値の衝突が具体的な立法問題として現れたケースとして、知財法の実務家にとっても重要な意義を持つ。同法案が成立すれば、参照組み込みによる法的義務を持つ安全基準の著作権保護が明確に担保される一方、公益団体が求める自由アクセスの範囲は無償オンライン公開という条件のみに限定されることになる。成立しない場合は、この問題の解決は裁判所での争いに持ち越される可能性が高い。
安全基準の利用、販売、ライセンスに関わる企業や法律事務所は、同法案の審議動向を注視する必要がある。
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パテント探偵社 編集部
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