PTAB審判在庫が2,000件を下回り20年ぶりの低水準——IPR抑制政策が特許無効化の構図を塗り替える

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米国特許商標庁(USPTO)の特許審判部(PTAB)における審判在庫件数が、2026年3月31日時点で1,866件に減少し、20年ぶりに2,000件を下回った。Patently-Oが2026年4月に報じたもので、FY2012のピーク時に26,570件あったPTABの在庫は93%超の減少を記録した。平均審理期間も2025年5月の28ヶ月から約9ヶ月に短縮されている。

この報告はPTAB運用部門(Division 3)を統括するStacey White代行副主席審判官から提供されたデータに基づく。在庫件数が2,000件を下回るのは2006年以来のことであり、PTAB創設以来の最低水準だ。

在庫急減の背景には、John Squires USPTO局長による一連の政策転換がある。Squires局長は2025年10月20日、すべてのIPR(当事者系レビュー)の開始決定権限を自ら掌握した。IPWatchdogの2026年4月8日の報道によると、IPR開始率は2024年10月の約65%から2026年2月には約37%に低下し、43%の急落を記録した。権限掌握直後には91件連続の申請却下(100%却下率)という異例の事態も生じた。

2026年1月9日、Squires局長は4件の裁量却下決定を先例拘束力のある判例として指定し、9件を参考判例として指定した。これにより、併合(joinder)、時間的制限、繰り返しの異議申立て、並行訴訟、矛盾するクレーム解釈に関する裁量却下の枠組みが明確化された。

こうした政策変更の累積的効果は数値に明確に表れている。Unified Patentsが2026年4月14日に公表したQ1 2026特許紛争レポートによると、2026年第1四半期のPTAB申請総数は前年同期比64.2%減の131件に急減した。IPR申請に限れば66.3%の減少だ。NPE(非実施主体)に対するIPR開始率は24.6%にとどまり、事業会社に対する40.5%との格差が鮮明になっている。

特許無効化の手段がIPRからEx Parte Reexamination(一方的再審査)に移行する動きも加速している。同レポートによると、2026年Q1のEPR申請件数は前年同期比157.1%増を記録した。USPTOも2026年4月のOfficial Gazette通知で新たな「プレオーダーペーパー」手続きを導入し、特許権者がEPR申請から30日以内に30ページ以内の反論書面を提出できるようにした

この政策転換は特許権者と異議申立者の双方に実務的な影響を及ぼしている。特許権者にとっては、IPRによる特許無効化リスクが大幅に低下し、特許ポートフォリオの防御力が向上した。Squires体制下では、異議申立者は初めて重大な手続き的障壁に直面している。

一方、異議申立者にとっては戦略の根本的な見直しが必要だ。IPRが事実上利用困難になったことで、特許の有効性を争うにはEPRか連邦地裁訴訟に頼らざるをえない。EPRはIPRと異なり、特許権者と直接対峙する当事者対立構造ではなく、USPTOの審査官が判断する一方的手続きであるため、異議申立者の関与が制限される

2025年11月の連邦巡回区控訴裁判所判決(In re Motorola Solutions, Inc.)も重要だ。同判決はUSPTO局長のIPR裁量却下権限に対する司法審査を制限する判断を示しており、Squires局長の裁量的運用に対して司法的な歯止めがかかりにくい構造を確認した。

PTAB在庫の歴史的低水準は、米国特許制度における権力バランスの変化を象徴している。2012年のAIA施行以来、PTABは「特許の墓場」とも呼ばれるほど特許無効化の中心的手段だった。しかしSquires体制下での運用変更により、その機能は大きく縮小した。特許権者に有利な環境が続く中、NPE訴訟の増加(Unified Patentsによると2025年のNPEシェアは過去最高)という副作用も指摘されており、今後の政策議論が注目される。

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パテント探偵社 編集部

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