米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は2026年4月16日、テバ・ファーマシューティカルズ(Teva Pharmaceuticals International GmbH 他)がイーライリリー(Eli Lilly and Company)を相手取った特許訴訟(事件番号:24-1094)において、マサチューセッツ州連邦地方裁判所が下した特許無効の法律問題判決(JMOL)を破棄する先例拘束力のある判断を下した。本件の対象となった特許は米国特許第8,586,045号・第9,884,907号・第9,884,908号の3件であり、いずれもヒト化抗CGRPアンタゴニスト抗体を用いた頭痛治療の方法クレームを含む。
地方裁判所は、これらの特許が35 U.S.C. §112の成文記載要件(written description)および実施可能要件(enablement)を充たさないとして、テバの特許クレームを無効と判断していた。§112は特許明細書が発明を十分に開示することを要求する規定であり、特にバイオ医薬品の属(genus)クレームに対しては、2023年の米国最高裁判決Amgen Inc. v. Sanofi(598 U.S. 594)が厳格な開示基準を示していた。地方裁判所はこのAmgen判決の基準を本件に適用して無効と判断したが、CAFCはこれを誤りとした。
CAFCの多数意見は、本件クレームがAmgen事件のクレームと本質的に異なる点を強調した。Amgen事件では、特定の機能的特性を持つ抗体の属全体を権利範囲とするクレームが問題となったのに対し、本件テバの特許クレームは「ヒト化抗CGRPアンタゴニスト抗体そのものを権利範囲とするのではなく、その抗体を頭痛治療という特定の限定的な目的に使用する行為のみを権利範囲とする」とCAFCは認定した。すなわち、これは抗体の「用途特許」(method-of-use claim)であり、抗体自体の属クレームではないという峻別である。
この区別は実施可能要件の評価においても決定的に作用した。CAFCは、抗CGRPアンタゴニスト抗体およびその製造方法はいずれも先行技術として広く知られており、ヒト化技術も周知の定型的手法であったとの証拠を評価したうえで、「抗体の製造または発見はむしろ事後の追加課題(extra credit)に過ぎず、他者に課されるべき必要な研究課題(necessary research assignment)ではない」と述べた。Ajinomoto Co. v. ITC、In re Herschler、In re Fuettererといった先例も参照し、既知の属を前提とする場合には開示要件が緩和される方向の解釈を採用した。
本件は、テバ対リリー訴訟における§112の無効を巡る問題への判断であり、当サイトが別途報告した損害賠償評決の復活に関するCAFC判断とは手続上別個の問題である。今回の判決は、特許クレームの有効性(validity)に関するものである。
製薬業界および特許実務への含意は大きい。今回の判決により、生物製剤の既知の抗体を既存の方法で製造し、その治療的使用を特許請求する「用途特許」アプローチは、Amgen判決後も依然として有効な権利確保手段となり得ることが示された。クレームの対象を抗体の属そのものではなく「既知の抗体の特定疾患への用途」に絞ることで、§112の厳格な開示要件を回避しつつ一定の権利範囲を確保できる可能性がある。バイオ医薬品特許の実務において、請求項の設計に際してクレームタイプの選択が重要な戦略的考慮事項となることを改めて示した判決といえる。
本件の判決全文はCAFC公式ウェブサイトおよびIPWatchdog(Federal Circuit Distinguishes Amgen in Reversal of Invalidation of Teva Headache Treatment Patents)で参照できる。
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パテント探偵社 編集部
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