USPTO審査の「暗黒物質」 特許庁通知の約25%が出願時未公開の先行技術を引用、実証研究が示す

知財ニュース

米国特許商標庁(USPTO)の特許審査において、特許出願者が出願時点では知ることのできない「シークレット先行技術」(secret prior art)の引用が急増していることが、大規模な実証研究で明らかになった。米国特許法の専門情報サイトPatently-Oが2026年4月に公表した分析によれば、現在の拒絶理由通知(office action)の約25%が、出願日時点でまだ公開されていなかった先行技術文献を引用しており、この割合は過去10年以上にわたって増加傾向にある。

この研究は、2002年から2026年までに登録された900万件の米国特許から得られた2億3,300万件の引用データ、および米国特許庁が提供するPatent Examination Data System APIから抽出した年間約1万件の拒絶理由通知サンプル(2008年〜2026年初頭)を分析対象としている。

研究が定義する「シークレット先行技術」とは、特許法35 U.S.C. § 102(a)(2)が規定する先行技術のうち、出願人が自らの出願日時点では参照・発見できない状態にあったものを指す。具体的には、他者が出願済みではあるが、出願人の出願日時点でまだ公開されていなかった特許出願がこれにあたる。この種の先行技術は出願人にとって「見えない」存在であるため、研究は「特許法の暗黒物質(dark matter)」と表現している。

詳細な分析によると、シークレット先行技術の約79%は後に公開前出願公報として公示された案件(pre-grant publication)であり、平均「秘匿期間」は371日とされる。残りの21%は出願公開されることなく直接登録された特許であり、こちらの秘匿期間はやや長い。実務上の観点からは、最終的にいずれかの家族出願(ファミリー)が公開された場合に初めて出願人が認識できる「準シークレット先行技術」もあり、完全な秘匿状態にある実際のリスクは法的な定義値よりも約4分の1程度低いとも分析されている。

この問題は、先行技術調査の限界という実務的課題を改めて浮き彫りにする。出願前にどれだけ徹底した先行技術調査を行っても、他人が同時期に出願中のシークレット先行技術を回避することは原理的に困難であり、拒絶理由通知を受けて初めてその存在を知るケースが多い。この傾向の拡大は、米国における特許出願の不確実性を高め、出願戦略の立案に影響を与えるものとして注目される。

同研究は、特許権利化コストと審査期間の長期化に対する政策的論点を提供するとともに、USPTO審査官がどのような文献を引用しているかを定量的に把握するうえで貴重なデータとなっている。

この記事について

パテント探偵社 編集部

知的財産の世界で起きている出来事を、ジャーナリズムの手法で報道・分析する独立メディア。特許番号・法的根拠・当事者名を正確に記述しながら、専門家以外にも読みやすい記事を届けています。掲載内容は法的アドバイスではありません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました