米国特許商標庁(USPTO)は2026年4月1日、ex parte再審査手続きにおいて、特許権者が審査開始前に意見を提出できる新たな手続きを導入した。同日付のオフィシャル・ガゼット通知に基づき、再審査請求書の送達から30日以内に最大30ページの意見書を提出できる。本手続きは2026年4月5日以降に出願された再審査請求に適用される。2026年第1四半期の再審査請求件数が直前四半期比で2倍以上に急増したことへの対応措置である。
新手続きの核心は、「実質的新規問題(Substantial New Question of patentability: SNQ)」の有無を庁が決定する前に、特許権者が意見を述べる機会を与える点にある。従来のex parte再審査では、特許権者が関与できるのは再審査が正式に開始された後に限られており、SNQの有無を判断する段階では原則として特許権者の意見は考慮されなかった。今回の変更により、特許権者は再審査請求が提起された直後の段階から防御行動をとることが可能となる。
意見書の提出条件として、USPTOは以下の要件を設けている。提出期限は再審査請求書の送達日から30日以内。分量は30ページ以内。宣言書(declaration)および証拠書類を添付できるが、裁量的不開始(§325(d))の議論には使用できない。意見書はSNQの有無に関する議論のみに限定される。請求人側は、特許権者の意見書に重大な事実または法的誤りが含まれる場合に限り、審判請求(petition)で反論する機会が与えられる。
USPTOのSquires局長がこの異例の手続き変更に踏み切った直接的な理由は、ex parte再審査請求件数の急増にある。同庁の統計によると、2026年第1四半期に受理した再審査請求は223件に達し、それ以前の四半期比で2倍を超えた。背景には、特許有効性を争う主要ルートであったInter Partes Review(IPR)の機関率(institution rate)の急落がある。2025年10月から2026年2月にかけてIPRの機関率は28.2%まで低下しており、これは同時期の平均から43%の減少に相当する。
IPR機関率の急落は、USPTOの内部方針転換と連動している。WilmerHaleの2026年4月PTAB/USPTOアップデートによれば、2025年3月以降のメモに基づく裁量的判断(discretionary consideration)により、PTABは600件を超える裁量的機関判断を下している。特許有効性を争う手段として信頼性が低下したIPRに代わり、実務家はex parte再審査へと移行しており、その結果として再審査請求の急増が生じた。Squires局長は今回の通知で、この件数急増を「異常事態(extraordinary situation)」と明示した上で、手続き規則の適用免除措置として新手続きを発動した。
一方で、PTAB全体の係属審判件数は大幅に減少している。2025年5月時点で平均28ヶ月以上かかっていた審判係属期間は、2026年4月1日時点で約9ヶ月まで短縮された。2012会計年度に26,570件のピークを記録した係属審判件数は、2026年3月31日時点で1,866件に減少しており、ピーク比で90%以上の削減を達成している。
今回の新手続きは、正式なルール改正ではなく、USPTO局長の裁量権に基づく既存規則の暫定的な適用免除として導入された点に注意が必要である。National Law Reviewの分析によると、既存の35 U.S.C.§303(a)の手続き規則との整合性について実務家からの懸念が既に表明されており、今後正式なルール改正へと発展する可能性がある。公式ガゼット通知に定められた改正案についての意見募集期間は2026年5月30日に締め切られる。
実務上の影響として、Fenwickの解説は特許権者側のメリットを強調する。SNQ判断前の段階での意見提出は、再審査開始後の行動と比較して戦略的優位性が大きい。再審査が開始された後は、特許権者の選択肢が限られるためである。他方、Stradling Yocca Carlson & Rauth の分析(「30 Days, 30 Pages」)は、30日という期限の短さと30ページという制限が実務的な制約になりうる点を指摘している。
IPR機関率の急落とex parte再審査の急増というトレンドは、米国における特許有効性争訟の構造的な変容を示している。USPTO、PTAB、および連邦巡回控訴裁判所(CAFC)の動向は、2026年後半以降の実務環境を大きく左右する可能性が高い。
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パテント探偵社 編集部
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