米国特許商標庁(USPTO)は2026年3月19日、商標出願の事前処理業務を自動化するAIエージェント「Class ACT」(商標分類エージェント型コーディング・ツール、Trademark Classification Agentic Codification Tool)を発表した。ジョン・スクワイヤーズ長官は発表の場で「5ヶ月かかっていた作業が、5分、場合によっては5秒に短縮できる」と述べ、USPTOの公式発表においてもその劇的な効率化が強調された。商標出願の審査遅延という長年の課題に対し、生成AIを活用したアプローチで応じた形であり、知財業界における官庁のAI導入として注目を集めている。
Class ACTが自動生成する情報は三種類ある。第一は国際分類(ニース分類)であり、出願人が指定する商品・役務がどの区分に属するかを判定する。第二はデザインサーチコードで、図形商標に付与される分類コードであり、これがなければ同一・類似の図形商標を検索する際に見落としが生じる。第三はシュードマーク(pseudo mark)で、綴りが独自であったり非標準的な表現を含むマークについて、検索に用いる正規化された文字列を生成するものである。これらの三要素が整っていなければ、商標の登録調査(サーチ)の精度が著しく低下する。従来はUSPTOの審査担当職員がこの作業を手作業で行っており、近年の出願件数の急増によって最大5ヶ月の遅れが常態化していた。
USPTOが発表したプレスリリースによれば、Class ACTの適用対象は、ロゴや図案を含む出願、表記が独特な出願、国際分類が申請書に記載されていない出願など、これまで手作業処理が特に遅延しやすかったカテゴリに集中している。AIが生成したメタデータはUSPTOの職員による確認を経た後に確定するため、誤情報がそのまま確定記録に入力されるリスクは設計上排除されている。ただし、AI生成の情報は職員のレビューが完了する前から審査担当弁護士および一般公衆に対して参照可能な状態に置かれるとされており、出願の進行状況把握という点では迅速化が実現する。
実務への影響は多面的である。出願人の側から見れば、区分指定や図形コードに関する申請書の不備が、審査通知(オフィスアクション)として指摘されるまでの期間が短縮されることになる。弁理士・商標代理人にとっては、AIが付与した区分やデザインコードが人間の専門的判断と乖離していないかを出願直後に確認する作業が新たに生じる可能性がある。スターン・ケスラー法律事務所の分析によれば、Class ACTの活用は「審査の加速」とともに「先行商標調査の精度向上」にも寄与するとされており、コンフリクト・サーチの信頼性が上がることで商標ポートフォリオ管理の観点からも恩恵があると指摘されている(Sterne Kessler分析)。
背景として押さえておくべきは、米国の商標出願件数の急増である。USPTOの2026年度予算要求書によれば、2026年度の商標出願件数は前年比約4.9%増が見込まれており、審査部門への負荷は構造的に高まり続けている。Class ACTは「政府業務のAIエージェント化」という近年のトレンドとも符合する動きであり、スクワイヤーズ長官が就任後に掲げた「AI活用による審査効率化」方針の具体的な実施例として位置づけられる。同長官は2025年末にIPR審査の運用改革にも着手しており、特許・商標双方の分野でAI・裁量的手続き双方の活用が加速している。
知財業界の観点では、USPTOによるAIエージェントの実務導入は、欧州特許庁(EPO)や日本特許庁(JPO)といった他主要庁でのAI活用動向と同時進行で進んでいる。特に商標分類という定型的・反復的な業務は、現時点でのAI技術の強みが最も発揮されやすい領域の一つであり、今回の試みが成功すれば、審判・審査コミュニケーションなど他の業務領域への展開も見込まれる。Class ACTの導入は、知財行政の現代化に向けた具体的な一歩として、国際的な注目を集めている。
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パテント探偵社 編集部
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