欧州特許庁、2025年の出願件数が初めて20万件を突破——AIと量子技術が成長を牽引、中国が日本を抜き3位に浮上

知財ニュース

欧州特許庁(EPO)は2026年4月13日、2025年の特許出願件数が初めて20万件を突破したことを発表した。EPOが公表した「テクノロジーダッシュボード2025」によると、2025年の出願総数は201,974件に達し、前年比1.4%増を記録した。これはEPO創設以来初めて年間出願数が20万件を超えた歴史的な節目であり、欧州が知識集約型産業においてグローバルな競争力を維持していることを示す指標として注目される。

出願件数の成長を技術分野別に分析すると、AIおよび機械学習に関連する特許出願は前年比約10%増加し、量子技術分野は同38%増と全技術領域のなかで最も高い伸びを示した。デジタル通信分野の出願も前年比11%増を記録しており、次世代通信技術に対する知的財産投資が活発化している状況が浮き彫りとなった。これらの成長分野は、いずれも半導体・ソフトウェア・通信インフラの技術革新と密接に結びついており、EPOへの出願増加は各企業が欧州市場における権利確保を急いでいることを示唆している。

EPO審査ガイドライン2026

出願国別では、米国が引き続きEPOへの最大出願国の地位を維持した。2位はドイツ、3位は中国と続くが、今回最大の変化は中国が日本を抜いて初めて3位に浮上したことである。中国企業・発明者による2025年の出願件数は22,031件に達し、前年比9.7%増を記録した。Huawei(ファーウェイ)を中心とする通信・AI大手が欧州での特許ポートフォリオを積極的に拡充しており、5G後継技術や生成AI関連特許における中国企業の権利取得が加速しているとみられる。日本は4位に後退したが、トヨタ・ソニー・キヤノンといった製造業大手が依然として高い存在感を維持している。

出願人別ランキングでは、韓国のSamsungが首位を維持し、Huawei、LGが続く形となった。注目すべきはNokiaの躍進であり、2024年の12位から2025年には5位へと大幅に順位を上げた。Nokiaはここ数年、6G関連技術や通信プロトコルに関する特許出願を急増させており、今回の順位上昇はその成果が数字に表れたものと解釈できる。SEP(標準必須特許)の観点からも、Nokiaの順位上昇は今後のライセンス交渉における同社の交渉力強化に直結する可能性がある。

EPOへの出願件数増加は、欧州単一市場の特許制度が依然として企業にとって魅力的な権利取得の場であることを裏付けている。欧州では2023年に「単一特許制度」および「統一特許裁判所(UPC)」が正式に発効しており、1件の出願・審査手続で複数の加盟国において統一的な権利保護を受けられる仕組みが整った。UPCの設立はEPO出願の有効性を高める効果をもたらしており、特に米国・中国・日本の大企業が欧州市場での権利確保を優先する動機となっているとみられる。

AI関連特許については、EPOがその審査基準においても注目を集めている。EPOの審査運用では、AI技術の特許適格性の判断にあたって「技術的性質(technical character)」の有無を重視する立場をとっており、単なるソフトウェアアルゴリズムであれば保護されないが、特定の技術的課題を解決するAIシステムであれば特許化が可能との基準を適用している。出願件数の急増に伴い、AIに関連する請求項の審査品質の維持をいかに確保するかが、EPOにとっての課題となっている。

量子技術分野における38%という出願増加率は、量子コンピューティングや量子センサー、量子暗号に対する企業の期待の高まりを反映している。現時点では量子コンピューターの商業的応用は限定的であるが、量子優位性(quantum advantage)が実現される時期を見越した先行的な権利確保が進んでいると考えられる。この動向はIBM・Googleなどの大手テック企業だけでなく、欧州・日本・中国のスタートアップや研究機関も含めた広範な競争を反映している。

日本企業・研究機関にとっては、中国の3位浮上と量子・AI分野での急増は注目すべき変化である。日本の出願件数自体は大きく減少したわけではないが、相対的な地位の低下は、欧州での権利化投資の規模と戦略において中国との差が広がりつつあることを示唆する。日本の知財戦略の観点からは、技術競争力を知的財産として欧州市場でいかに適時かつ網羅的に保護するかが、今後の重要課題として引き続き問われることになる。

EPOは今後、UPCとの連携強化および審査の効率化を進めながら、出願増加への対応を継続する方針を示している。日本・欧州・米国企業にとって、2025年の出願動向は特許戦略の見直しにあたって重要な参照点となる。AIと量子技術の出願増加が続く以上、欧州での先行出願の重要性は今後さらに高まると考えられる。

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パテント探偵社 編集部

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