米国連邦最高裁判所は2026年4月29日(水曜日)、Hikma Pharmaceuticals USA Inc.対Amarin Pharma, Inc.事件(事件番号24-889)の口頭弁論を実施する。本件はハッチ・ワックスマン法(Hatch-Waxman Act)に基づく「スキニーラベル(skinny label)」制度を活用したジェネリック医薬品メーカーが、特許を受けた適応症に言及しないラベルを使いながらも、マーケティング活動を通じて特許侵害の誘導(induced infringement)に問われるかという問いを正面から扱う。
最高裁がジェネリック医薬品の誘導侵害責任をこれほど直接的に審理するのは異例であり、業界全体に影響し得る判決が注目されている。
事件の背景——Vascepaと二つの適応症
Amarin Pharmaは、高純度EPA(エイコサペンタエン酸)製剤であるVascepa(バセパ)を二つの適応症で展開してきた。第一の適応症「重度の高トリグリセリド血症(空腹時トリグリセリド値500 mg/dL以上の成人)」は2012年にFDA承認を取得しており、本件における特許の対象外だ。第二の適応症「心血管リスクが高い成人における心血管イベントリスク低減」は2019年にFDAが追加承認を与え、Amarinの特許が設定されている。
ハッチ・ワックスマン法は、ジェネリックメーカーが先発品の特許適応症を「除外記載(carve-out)」したラベルで FDA 承認を取得することを認める。このラベルが「スキニーラベル」と呼ばれる。Hikmaは高トリグリセリド血症の適応症のみを記載したスキニーラベルで FDA 承認を取得し、製品を発売した。
問題となったマーケティング活動
紛争の核心は、Hikmaが発売後に行ったプロモーション活動にある。Hikmaは自社製品を「Vascepaのジェネリック版(generic version of Vascepa)」と称し、Vascepaの持つ心血管保護効果に関する臨床データに公然と言及するプレスリリースを複数回発信した。
Amarinはこれを根拠に、Hikmaがラベルで除外記載した特許適応症——心血管リスク低減——での使用を医師・患者に誘導したと主張し、誘導侵害訴訟を提起した。第三巡回区控訴裁判所は、Amarinの訴状が十分な訴訟原因(plausible claim)を示していると認定し、Hikmaの訴訟却下申立てを退けた。最高裁は2026年1月に裁量上訴(certiorari)を認めた。
最高裁に上がった二つの争点
最高裁が審理する問いは主に二つだ。第一に、ジェネリック品のラベルがハッチ・ワックスマン法に従って特許適応症を正しく除外記載している場合、メーカーが自社製品を先発品の「ジェネリック版」と称し先発品の公開データに言及したことだけで、誘導侵害の申立てとして十分か。第二に、特許適応症への使用を直接奨励・言及する指示や陳述を訴状に含めていない場合でも、誘導侵害の申立ては成立するか。
米国政府も口頭弁論に参加
最高裁は連邦政府の意見陳述者(amicus curiae)としての参加を認め、法務長官代理(Solicitor General)に口頭弁論での分割弁論時間を付与した。Hikma、Amarin、そして政府の三者が弁論を行う異例の構成だ。政府の立場はジェネリック薬の市場アクセス確保と製薬特許の保護という二つの政策目標をどう調整するかという観点から注目されている。
実務上の意義と業界への影響
スキニーラベル制度はジェネリック業界にとって、先発品の特許適応症と競合せずに早期市場参入を可能にする重要なツールだ。本件で最高裁が「ジェネリック版」という表現だけで誘導侵害が成立すると判示すれば、スキニーラベルの実効的な価値が大幅に損なわれる。逆に、ラベル記載以外のマーケティング言語のみでは誘導侵害の訴訟原因が成立しないとすれば、製薬特許権者によるエンフォースメントの範囲が狭まる。
なお、Hikma以外にも同一のスキニーラベルで同製品を販売するジェネリックメーカーが7社存在するが、Amarinはそのいずれも提訴していない。なぜHikmaだけが訴訟対象となったかという点も口頭弁論での焦点の一つになるとみられる。4月29日の口頭弁論を受け、最高裁の判決は2026年夏の閉廷前に下される見通しだ。
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パテント探偵社 編集部
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